伊勢新聞

2020年12月13日(日)

▼三重県津市郊外の運動公園に隣接するコンビニで若者が1人、年に一度の溝掃除をしていた。広い駐車場に降った雨は、周囲を囲んだ溝に泥ととともに流れ込み、下水路との接続部分で沈殿させる。水は乗り越えて下水路のフタから直接入り込み、溝に堆積した泥から草木の芽が顔を出し、堅固な地盤を形成する

▼前後して、客が駐車場に捨てたジュースの空き缶やプラスチックゴミが入り込み、どうにもならない状況が出現する。長く連なり、日常の清掃では手が付けられないまま1年間放置され、年末のこの時期、意を決したかのような溝掃除が始まる

▼作業は約4時間。ゴミは袋に10個ほど。時節柄、しっかりマスクをしての奮闘に、大変だなと言ったら「ほこりアレルギーなんで、コロナのためじゃないんです」と笑った。今日13日は古来「すす払い」の日。1年分の汚れを落として新しい「年神様」を迎える年末行事で、江戸時代に城中で12月13日に決めて庶民にも広がった

▼神社仏閣のすす払いが年末の新聞に登場するのが恒例だったが、近年見かけなくなった気がする。記者との交流が途絶えたか。無神主、無住職の神社や寺が増え、年神様まで手が回らなくなったか。「ゴミはお持ち帰りください」の看板で市がゴミ回収を放棄した運動公園の方はせめて旧習を思い出してもらいたい

▼先生や屋根に書を読む煤払―漱石。一家のあるじは邪魔者扱いされ、部屋から追い出された、あるいは「すす逃げ」の季語もあり、逃げ出す男連中もいたらしい。漱石先生はどちらだったのか。屋根に登って本を読んでいる。