伊勢新聞

2020年12月9日(水)

▼新型コロナウイルス感染症の対策費が膨らみ、県の来年度当初予算に対する各部局要求額が過去最高額に達した。その年の最大の行政課題に合うように、すなわちアピールしやすいように事業を理屈づけして要求するのが優れた行政マンだが、「コロナ禍を乗り切り、県民生活の安全や安心を作りたいという担当部局の積極的な要求」(鈴木英敬知事)だったことも、あったには違いない

▼県民参加型予算(みんつく予算)の投票開始に先立ち、県が応募310件の中から「事業化候補」として絞り込んだ29件に、その思いはうかがえる。昨年は20テーマを設定して県民の自由な発想を制約したとの批判もあったが、今年はさらに「感染症防止対策と社会経済活動を両立しながら、三重を明るい未来へと導くアイデア」一本に絞り、6項目を設定し募集した

▼結果は「地域経済の再生と進化」の105件が最多で「県民の命を守り抜く感染拡大の防止」「安全・安心な暮らしの再構築」「雇用の維持と新しい働き方」「新たな人材育成への転換」「分断と軋轢からの脱却」の順。鈴木知事は「深刻化した経済の再生に関心が高まったため」と語ったが、事業化候補の29件では「命を守り抜く」関連が最多の10件で、分離が難しい「安全・安心な暮らしの再構築」が続いた

▼時節柄「経済再生」を選択するにはためらいがあったのではないか。県を超えた人の移動を促すプレミア券のたぐいはどうかと思うが、こういう時だからこそ県職員の思考では到底選べない自由奔放な地域再生の発想はなかったかという気はする。