伊勢新聞

<まる見えリポート>ワーケーション 伊勢志摩誘客に好機

【ワーケーション受け入れに向けたモデル事業所の取り組み事例(鳥羽市提供)】

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、新しい生活様式の一つとして急速に認知度を広めつつある「ワーケーション」。観光を主産業とする伊勢志摩地域にとって相性も良く、各自治体それぞれが強みを生かして誘客につなげようと取り組みを進めている。

ワーケーションは「ワーク(仕事)」とバケーション(休暇)を併せた造語で、勤務先を離れた観光地やリゾート地で休暇を楽しみながら働く様子を指す。海外を起点にコロナ発生前から存在していた概念だが、コロナを境に通信を活用したテレワーク等の需要が増加し、新しい生活様式を示す具体例の一つとして注目を浴びるようになった。

世界最大の旅行プラットホーム「Tripadviser(トリップアドバイザー、本社・マサチューセッツ州ニーダム)がまとめた今冬の日本人旅行者による国内の人気旅行先で1位に選ばれた志摩市。同市浜島町迫子にある「NEMU RESORT」では、県内でもいち早く3月からワーケーションを取り入れた宿泊プランを始めている。

当初は5月の大型連休と、8月の夏休みまでの間の平日閑散期の稼働を上げる目的で長期滞在客を呼び込むプランとして企画を進めていたが、コロナ発生に伴い感染防止策なども取り入れたプランへと方針を転換したという。休業期間を除き9月までに延べ329人がプランを利用。9月以降の利用状況も上々といい、同マーケティング部の廣裕美子支配人は「施設外の地域全体で魅力を発信していけたら」と話す。

志摩市では、企業の健康経営への取り組みに注目して今年度当初予算に「ヘルスツーリズム推進事業」を計上。これに補正予算を合わせた総額770万円を活用し、市の抱える自然環境を生かした誘客プランの作成やモニターツアーによる市場調査を進めている。

同市観光課の森本泰史主事は「市としてはマイカー利用拡大に伴い市内での滞在期間が短くなりつつあったことで新しい手法を探る必要があった。コロナの発生により思わぬ形で考え方が広がっているが、企業側のワーケーションに対する制度がまだ追いついていないという印象。各施設が対応するための費用負担を含め課題は多い」と話す。

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伊勢市では「クリエイターズ・ワーケーション」と題して、事業費約2468万円をかけて文化・芸術分野で活躍する「クリエイター」を市内宿泊施設に招待する事業を実施。著名人による「滞在記」の公開を通じて、伊勢の魅力を発信するのが狙いだ。

11月2日―来年3月15日までに92組130人が市内への滞在を予定。最大13泊分の宿泊料全額負担や制作の場の提供に加えて、支援金として1人当たり5万円が支給されるなど参加者にとっては破格の内容となっている。

同市観光誘客課によると、11月末現在で24組が制度を活用し、地元専門学校との料理を通じた交流や、SNS(会員制交流サイト)でのイラスト作品公開などの活動を確認したという。

一方で活動の多くはそれぞれの「滞在記」以外に知る手段が乏しく、肝心の滞在記も方法を誤ると各クリエイターの有料ページにつながるといった混乱も発生している。富岡由紀同課長は「意見を聞きながら今後に反映させたい」と話す。

鳥羽市では、総額約3288万円をかけて、市内宿泊施設を対象としたワーケーションの受け入れ整備補助や、受け入れ施設の紹介や関係人口創出に向けた会員制のポータルサイト設置などを進めている。

具体的には市内からワーケーションに向けた取り組みプランを公募し、有識者らで構成する選定委員会を通じて4事業所をモデル事業所として選定。年明けには企業の人事担当やインフルエンサーなどをモニターとして招いてモデル事業所を利用体験してもらい、サイト等を通じた発信を呼びかけていくという。

担当する同市企画財政課の木下大輔さんは「ファンとして鳥羽を好きになってもらいながら、創造性のあるビジネス展開につなげたい。最終的には伊勢や志摩とも連携して盛り上げていけたら」と期待を寄せた。