伊勢新聞

2020年12月6日

▼クラスター(感染者集団)が建物の一部を対象とすることもあるとは知らなかった。とはいえ、雇用経済部が入る三重県庁の8階が県内16例目のクラスターとなり、都道府県で、米軍基地のある沖縄県に次いで2例目

▼何という失態かという気はする。鈴木英敬知事は「最大級の警戒感と危機感を持って対策に取り組む」。遅かりし、という気もしなくはない。第1波に比べ、第2波は、その始まりの認識に楽観視を感じさせたが、それがオール三重の緩みにつながったのではなかったか

▼全職員を検査する考えは「現時点ではない」。することになる基準については「仮定の話には答えにくい」。老練な政治家のような回答だ。災害対策のタイムラインも、コロナ感染対策のモニタリング指標も、起こり得る事態を想定して判断基準にする手法だ。仮定の話は、憂いをなくす備えでもある

▼「GoToトラベル」が感染要因である証拠は「今のところない」と菅義偉首相は言い、鈴木知事も「キャンペーンに起因して感染が拡大しているというエビデンス(根拠)はない」

▼3日の厚労省の新型コロナ専門家会合での東北大学の押谷仁教授の報告によると、1―8月の感染者25000人余の分析で、県を越えた移動歴のある人が他人に感染させた割合は25・2%。移動歴がないか不明な人の場合は21・8%

▼また感染を広げる移動歴のある感染者の89%が10―50代。親の世代に感染を広げて顕在化するという。証拠やエビデンスがないとも言い切れない。知事の想定力は首相並みになってしまった。喜ぶべきか悲しむべきか。