伊勢新聞

2020年11月27日(金)

▼松阪市の開業医が製薬会社の女性MR(営業担当)にわいせつな行為を仕掛けてけがをさせたとする強制わいせつ致傷罪を問う裁判員裁判の2回目の公判が津地裁であり、被害女性が証言した。ただの強制わいせつ致傷事件ではない。問われているのは、立場を利用したセクハラ行為かどうかである

▼「額にキスはしたが、わいせつというほどのことをしていない」として弁護側は無罪を主張している。胸を触ったり、股間を顔に押し付けてはいないので、避けようと女性が椅子から落ちて左目を負傷したのは騒ぎ過ぎ、本人の過失とでも言いたいのだろう

▼事件は平成27年3月に発生している。5年も経ての裁判は、警察の書類送検を受けて津地検が同30年に不起訴にしたからで万事、扱いが表面的。風向きが変わったのは津検察審査会の不起訴不当の議決であり、起訴したのが昨年12月というのはME TOO運動やレイプ被害を実名告発したジャーナリスト伊藤詩織さんの行動、財務事務次官のセクハラ問題が影響したのではないか

▼重要な取引先相手に「女性は強い口調で抗議できなかった」と検察は陳述している。セクハラの定義をそのまま踏襲ているかのようである

▼十数年前、鈴鹿市の開業医の女性看護師に対する「股間を顔に押しつける」たぐいのセクハラ問題を取材した。准看護師が看護主任だったり、被害を避けて退職した看護師もいたりしたが、医者本人は「天地神明に誓ってやってません」と言ったのを鮮明に覚えている

▼報道で警察が動いた話もついぞ聞かなかった。時代は変わるだろうか。