伊勢新聞

2020年11月5日(木)

▼県が初めて民間企業と包括連携協定を結んだのは平成18年4月で、「新しい時代の公」すなわち行政だけで「公」を担う時代は過ぎたという野呂昭彦前知事の持論に基づき「地域に密着した店舗経営や、地域貢献活動」を進めるコンビニエンスストア、ローソンとの間でかわした

▼県が求めた「一人ひとりが力を発揮し、経済や産業が元気な社会」などの社会像に、企業側が実現への提案をする。具体的地域課題ではなく文字通り「包括的」連携で、調印式を前に当時の野呂知事は「分野などの制限がない。内容はこれから双方で詰めていく」

▼鈴木県政になって包括連携協定は花盛りだ。ホームページの検索目次はこの数年分で満杯。市町にも拡大している。平成27年に締結した全日空との包括協定は県に人が集うグローバル化の推進、観光資源、農林水産物・食品の活用、航空宇宙産業にかかる人材育成が骨子だったが、今回さらに「空飛ぶクルマ」への覚書を締結。県は苦境の全日空の社員受け入れを表明し、経営支援に力を貸す

▼自治体は民間の資源、ノウハウを生かし、企業は自治体の信用力やCSR(社会的責任)に役立てる協定の趣旨に変化はないか。鈴木英敬知事の「戦略的不平等」は、公平性が時に「悪平等」となると否定する。一般競争入札より随意契約がいいと言っているようで、手っ取り早さ優先は民主主義の本質に関わる

▼県の包括外部監査は、ルールを別の基準で尻抜けにする脱法行為の横行を指摘した。包括連携協定は入札やプロポーザルを飛び越える危険のあることを、思い出させる。