伊勢新聞

2020年11月2日(月)

▼「悪しき平等主義」という言葉が社会的に認知されているのかどうか。鈴木英敬知事は「戦略的不平等」と言う。食品メーカーとの包括協定(平成27年)に、公平性が求められる行政としていかがなものかという声があったのかもしれない

▼「それが悪平等なのです。せっかくのビジネスチャンスを、行政が潰してしまっている」と語っていた。コロナ禍で経営悪化した航空大手のANAホールディングスの社員を県が受け入れるという。かねて連携が強く「コロナ禍で労働力の橋渡しをしてきた県の趣旨と合致する」(鈴木知事)。「特定企業とのしがらみか」という評は「悪しき平等主義」なのだろう

▼県はかつて官民人事交流をやったことがある。企業と3年ほど人材を交換するのだが、一度でやめてしまった。あの人はねえ、なんて陰口は当時多く聞いたが2、3年後「民間だって本社の幹部には最大限接待するじゃないか」と県幹部から言われた。社用族のことか

▼県立大学の国立移管(昭和47年)で「松阪肉をいくら(陳情で国へ)運んだか。肉で済めば安いもんだ」と担当者が言っていた。「飲み食い漬けにして権利放棄料が安くできれば県民にとってプラス」の考え方も古い。のちのカラ出張につながるが、民間を見習うというより、県の習慣になじみもしたのだろう

▼官民人事交流のきっかけは中曽根行革の民活導入である。第二臨調は「民間活力を最大限に生かす方策」を政府に求めた。官民の悪習が融合していく。政府・自民党合同葬に、泉下で元首相は会心の笑みを浮かべているに違いない。