伊勢新聞

2020年11月1日(日)

▼1回でダメなら2回やれ、2回でダメなら―というわけではなかろうが、県内の養殖マハタが8月からへい死している問題で、県は通常1回のワクチンを2回打って効果を調べる実証実験をするという。ワラをもつかむ気持ちが伝わってくるのは門外漢ゆえか

▼養殖漁業の高いへい死率が問題になるのは今に始まったことではないが、最近はアコヤガイ、カキなどと相次ぎ、いずれも県の代表的産物を直撃して対応が急がれる。黒潮蛇行などに伴う対流不足、水温上昇、食料となるプランクトンの減少などが原因として浮上していたが、養殖漁業の昔からの問題点として指摘されてきた過密養殖によるストレス発生もあげられている

▼かつてハマチ養殖などではエサの過剰供給による漁場汚染や薬物散布も取りざたされていた。ワクチンへの依存はいつか来た道を思わせる。「高水温による疾病」がへい死の理由の一つにあげられているためだが、県水産研究所の過去の報告では自然水温より高い方が生存率も高いという研究もある

▼ワクチンはむろんウイルス性神経壊死症への対策で、2回打ちの効果も実証されているが、「疾病」はウイルス性なのか。「高水温」が「疾病」の原因なら切りがない気もする。2年続きでへい死が懸念されているアコヤガイ、カキなどの対策も不安を抱えたまま。自然界の仕組みは一筋縄ではいかない

▼新型コロナウイルスで人間界は三密回避が叫ばれ、ソーシャル・ディスタンスが促されている。人間の社会生活とは反する対策だが、大海原に生息する生命にとっては必要な環境であろう。