伊勢新聞

2020年9月18日(金)

▼任意の団体で口座を作ろうとして、第三銀行に断られたことがある。本人確認ができないためという理由だが、ほかの仲間が別の銀行では受け付けてくれたなどと説明してもだめだった。同行の本人確認法の運用の厳格さを身をもって味わったが、NTTドコモの電子マネー決済サービス「ドコモ口座」を使った不正引き出し問題では同行も引っかかったらしい。本人確認の甘さを突かれたのだろう

▼銀行のコンピューター化やキャッシュレス化の進展に伴い、不正引き出しの手口も巧妙化している。ATM(現金自動預け払い機)にカメラを仕掛けて口座番号や暗証番号を盗む手口はもう古典的で、今はカードリーダーでキャッシュカードの中身を読み取る「スキミング」の時代。同行もゴルフ場のロッカーなどでカードと同じ暗証番号を使わないよう注意を呼びかけている

▼そんな同行でも「ドコモ口座」からのアクセスでは手もなく引き出された。りそな銀行やゆうちょ銀行などの被害で大問題になっていなければまだまだ気づかなかったのではないか。ネットワークで物理的につながっている場合、不正アクセスと防御は常にいたちごっこの関係にある。完全に断ち切るにはオフラインを併用するしかない。折り返し確認の連絡をどう入れていくかである

▼コロナ禍にさえ便乗する国をあげてのキャッシュレス社会への誘導で銀行も生存をかけてバスに乗り込まざるを得なく、〝利便性〟のお題目には逆らえないのかもしれない。防衛のため預金者はこまめに通帳を確認するようにという呼びかけがなかなかの皮肉だ。