伊勢新聞

2020年9月13日(日)

▼言葉一つで印象はがらりと変わる。税金を自分たちの飲み食いに大半使った三重県の「カラ出張事件」も、本来の「公金横領」と呼ぶのに比べ柔らかい。「公金横領」は違法行為の名称であり、「カラ出張」はそのための手段に過ぎないが、手段を違法行為の総称にすることで、犯罪性を薄めてしまった

▼その後も不正経理は絶えないが、県は「不適正経理」と言う。年度末に使い切れなかった国の補助金などは、返そうとすると手続きが煩雑な上、国からも嫌がられ、次年度で削減されたりする。使い切ったように見せかけるのは実務上、やむを得ない面がある―などが理由だ

▼三重大医学部付属病院で、使っていない薬を使ったようにして2800万円の診療報酬を不正請求していた。伊佐地秀司病院長は「手術中に使う可能性のあった薬は請求してよいという文化が診療科内にあった」。こちらは「カラ出張」ならぬ「診療科内の文化」ということらしい

▼薬の使用実績を上げて、製薬会社にアピールすることも、不正請求した理由の一つという。といって製薬会社と医師との間で「金銭の授受があったという事実は把握していない」が、診療科への金銭の寄付はあった。「不適正な金銭の授受」の認識はないのだろう

▼不正請求したのは麻酔科医で、上司とともに自宅待機にしたという。いつぞや麻酔科医の複数退職で手術に支障が出ているといううわさが広がったことがあった。医療ドラマに登場することはめったにないが、手術を左右するほどその存在は大きい。「文化」はその麻酔科だけのものか、全診療科共通か。