伊勢新聞

2020年9月1日(火)

▼ニワトリが先か卵が先か―は古来、科学と哲学の両面から論じられてきた。近年、ニワトリ説が優勢のようだが、決着はまだまだ先のようだ

▼一般的には、始まりが不明なモノについて、あるいは社会のさまざまな問題を考察する時にニワトリと卵論が浮上する。県発注の下水道管敷設工事を巡り、桑員河川漁協組合長が建設会社から金を脅し取ったとされる事件で、県は「漁協の同意」を工事開始の条件にし、漁協は業者が同意を求めに来なければ県に圧力をかけて工事を止めていたという

▼では、漁協が県に圧力をかけて工事を止めたのが先か、県が「漁協の同意」を業者に指示したのが先か。工事に伴う汚水が河川に流れ込むことの対策を漁協が県に求めたのが始まりには違いない。が、県が「漁協の同意」を指示しなければ工事を止めることなどできはしない

▼国は汚濁は一過性として交渉を禁じたが、アユの放流など季節的な漁業で生計の足しにしている漁協にとって河川環境の悪化は放置できない。県出先機関への抗議は昼夜を問わず、住民との直接折衝に慣れない担当職員がウツやノイローゼを発症することにもなった

▼あぐねて編み出したのが「漁協の同意」である。自分たちの難題を行政指導に弱い業者へ丸投げした格好だ。何十年も問題が表面化しなかったのは発注額に同意額を上乗せしていた可能性が想定され、公共事業予算削減が浮き彫りにした問題と言えなくはない

▼補助金などを支給していた桑名市が漁協との協議も指導していたのはそのせいか。市の責任はどうなるか。県も気が気であるまい。