伊勢新聞

<まる見えリポート>桑員河川漁協組合長の恐喝事件 漁協同意が工事の条件

【下水道管敷設工事を発注した北勢流域下水道事務所が入る県四日市庁舎】

三重県発注の下水道管敷設工事を巡り、建設会社から金を脅し取ったとして、県警組織犯罪対策課に恐喝の疑いで逮捕された桑員河川漁協(東員町)の組合長、川﨑幸治被告(61)=別の恐喝未遂罪などで公判中=の事件で、県警は県が業者に対し、法的必要性がないのに漁協の同意を得るよう求めたことが事件につながったとみている。同漁協の事情に詳しい元県議の水谷俊郎東員町長が取材に応じ「漁協の不当要求は昔からあり、県が業者に漁協から同意を得るよう指示するのが慣例化していた。『金を持って行け』と言うのと同じ」と指摘した。

複数の関係者によると、漁協が公共工事の受注業者に「協力金」名目で行う不当要求は川﨑被告の父親(故人)が組合長だった数十年前から常態化していたとされ、要求を成立させたのは県が「漁協の同意」を工事開始の条件にしたためとされる。さらに、漁協は業者が工事説明に来なければ、県に圧力をかけて工事を止めていたという。

建設業界出身の水谷町長は30年以上前から漁協の不当要求を耳にしていた。「工事説明がないと(漁協が)現場近くの川に死んだアユを放り込み、業者の担当者を呼びつけて脅し、金を要求していた。こんな漁協の意を組んで県が工事を中止させるのはおかしい」と語った。

こうした問題を知っていたため、水谷町長は平成23年の町長就任で町支出の補助金を見直した際「真っ先に切ったのがこの漁協」と明かした。町は18年度―22年度に「員弁川環境保全事業対策補助金」の名目で計250万円を支出していた。

水谷町長は県議を務めていた約20年前、議会で桑員河川漁協の問題を取り上げたという。県議会の会議録によると、平成12年3月の定例会で水谷県議(当時)は「員弁郡内では漁業組合との調整の関係で工事に着工できないカ所が数多くあり、何の理由もなく半年間着工を延ばされたカ所もある」と指摘した。

この指摘に対し、当時の県土整備部長は県が定めた「漁業権設定河川における公共事業、地域開発等に関する基本方針」に従っていると説明。「必要に応じた漁協との事前協議や業者と漁協の立会い」があるとし、その上で「漁協側の都合」で工事が止まっている事例が複数あることを認めた。

こうした事例は今でもあるという。県内のある建設会社は県四日市建設事務所が発注した護岸堤防の耐震補強工事を受注した際、漁協に工事説明に行かなかった。すると突然、同事務所から工事の中止を求められたという。

同社の担当者は、現場が員弁川流域の下流だったため漁業権が及ばないと考え、説明に行かなかった。漁協に「協力金」を払う旨を伝えると解除されたという。約1カ月間、工事の中止を余儀なくされた。担当者は「業者が何をされると嫌がるかをよく知っている」と話した。

県によると、漁協の漁業権が及ぶのは員弁川とその支流。市町では、いなべ市▽東員町▽桑名市▽朝日町▽川越町という。県は漁業権を理由に「漁協との協議が必要」と主張するが、海の漁協と違い、内水面漁協と呼ばれる川の漁協は漁業で生計を立てている人はいない。このことは県も認めている。

そのため、被害に遭ってきた複数の業者関係者は「漁業権」と「河川環境保全」の拡大解釈が漁協の不当要求につながっていると指摘する。漁業で生活しているわけではないのに、漁業権があるというだけで理不尽な要求が通っていると考えるからだ。漁協の不当要求は河川と関係のない工事などにも及んでいるといい、漁協組合長の立場を悪用することで恐喝が繰り返されてきたと主張している。

今回、川﨑被告が逮捕された県北勢流域下水道事務所発注の工事について、同事務所は「漁協への説明や同意は必要ない」としている。では、なぜ業者は漁協の事務所に出向いたのか。業者は県警の調べに「県から工事説明に行くよう指示されたため」と話しているという。

同事務所は事件への関与について否定も肯定もせず「担当者が変わっており、当時のことは分からない」としている。

27日にあった川﨑被告の初公判では、桑名市内の宅地開発工事を巡る恐喝未遂事件が審理され、開発許可を行った市が業者に対し、漁協から工事の同意を得るよう指示していたことが明らかになった。市は「指示をしていない」と反論するが、公判では「組合と協議するよう指導した」とする市職員の調書も読み上げられた。

今後、県の関与も明らかになるのかについて注目が集まっている。ある業者関係者は「行政側が漁協に協力しなければ恐喝事件は起きないという本質が裁判など公の場で明らかになり、行政が漁協の要求に応じない仕組みを作らなければ、数年後にはまた同じことが起こるかもしれない」と話し、県警や地検の捜査に期待を寄せている。