伊勢新聞

2020年8月31日(月)

▼「急いじゃだめだ。急いじゃ」―というのは、かつて斎藤十朗自民県連会長(当時)に冗談交じりに「県はこの人の思うように動いている」と言わせた県議会の重鎮藤田幸英(故人)が施策などをぶち上げた時の言葉だ

▼内輪の話の中で口にすることで、慎重に進めるなどもっともらしいことを説いているわけではない。急ぐやつは死ぬというのだ。駆り立てられるように実現を急ぐ政治家などは死が近いというのが、6期のベテラン県議の実感らしい

▼安倍晋三首相がまたも突然、辞意を表明した。6月の定期検診で持病の再発の兆候を指摘され、7月に体調を崩し、8月に再発が確認されたという。6月から体調異変が政治判断に影響していた可能性が浮上する。新型コロナウイルス感染症対策などを理由に、会期を延長せず通常国会を閉会したのは、正常な判断だったか

▼その後、国民の前に姿を見せなくなったこととの関わりはどうか。定期検診で再発の兆候が指摘される前も、気づかず病に影響されていた可能性はないか。柔軟性は失われ、V字回復は明らかに急いでいた。懸念は広がる。「残念」「痛恨の極み」と鈴木英敬知事は声を詰まらせたという

▼「1年ごとに総理がころころと変わった政治に安定をもたらした」ことを評価の筆頭にあげたが、そうなったのも、第1次安倍内閣からだった。自身への影響について「私も46歳。健康管理はきっちりしなければならない。政治家が出処進退を判断するのは難しいことだとも感じた」

▼その言葉の一つ一つが県に何をもたらすか。思いをはせざるを得ない。