伊勢新聞

2020年8月25日(火)

▼改革派を自任していた北川正恭元知事の就任当初の口癖は「北京のチョウチョ」だった。「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる」というカオス理論の一つバタフライ効果だが、日本にも「風吹けば桶屋がもうかる」のことわざがある。江戸時代の町人文学、浮世草子が起源という

▼いずれも、関係がないと思われる場所や物事に影響が及ぶという意味だが、同時に予測困難性を表す。物理学の理論も庶民の知恵も結論が同じと思えばおもしろい。流言やデマというのも、そのようなものに違いない。藤田医科大学岡崎医療センターの守瀬善一病院長が、新型コロナウイルス集団感染が発呈したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の乗客受け入れについて、振り返っている

▼「国内に感染が広がってしまうという思いで決断した。判断は間違っていなかった」という結論に拍手を送りたいが、それはそれとして当初は周辺住民の反対も強く、説明会を2回開いたという。理解は十分だったか。当時は建設会社から建物の引き渡しを受けたばかり。国の要請で無症状感染者と濃厚接触者を受け入れた時は医療機関としての治療行為はできず、発症した患者は周辺の医療機関に送り込んだ

▼しかし、市民に同大学病院本院を含め医者からの感染に対する警戒心が広がり、医者らが会員の県内のゴルフ場が閑古鳥が鳴くことになる

▼「他の病気の人に医療が提供できないのは本末転倒」と守瀬病院長。デマ・流言の弊害を指摘しているのかもしれない。立場の違う者同士の意思疎通の難しさを感じざるを得ない。