三重県などは、老朽化のため平成30年7月から営業を休止している紀北町東長島城ノ浜の県営古瀬川(こせがわ)プール(通称・孫太郎プール)を廃止し、隣接する城ノ浜海水浴場にプールを新設することを、このほど決めた。城ノ浜地区の新たな観光施設として集客増加を図る。
孫太郎プールは紀勢自動車道紀伊長島インターチェンジ(IC)を下りてから車で約十分の場所にある。昭和55年に開設し、50メートルプールや、長さ120メートルのウォータースライダーがある。町内では、町の鳥・カンムリウミスズメを孫太郎と呼ぶことから、公募で愛称が決まった。県や町、地元企業などが出資する第三セクター会社「紀伊長島レクリェーション都市開発」が管理と運営を担う。
県尾鷲建設事務所によると、最盛期の平成元年は3万3千人が利用した。少子化や、他に観光スポットができたことなどから平成27年は1万3千人、28年は1万300人、29年は1万100人と、利用客が減少。プールを運営するため平日で1日10人、繁忙期だと1日17人の監視員などのスタッフが必要で、ワンシーズン(7、8月)に約1100万円の維持費がかかり、赤字が続いていた。休止する前の29年は590万円の赤字だった。
さらに、設備の老朽化に伴い利用客の安全性が確保できないため、30年から休止に。昨年度に県や町などで構成する「熊野灘臨海公園利用促進検討会」を設置し、プール運営について協議してきた。その結果、「プールのろか装置の取り替えや屋根の改修など約1億円の修繕費がかかり、採算が取れないことから廃止することを決めた」(同事務所の担当者)という。
県は来年度から撤去工事を始める予定。1万7300平方メートルのプール跡地はさら地にして海抜16メートルにかさ上げし、海水浴客のための津波避難場所にする。普段は収容台数約250台の駐車場として利用する。撤去工事や土地の造成、かさ上げ費用に約2億円の費用を見込む。
孫太郎プールの利用者が減る一方で、隣接する城ノ浜海水浴場の利用客は31年は5600人と25年の2600人と比べて2倍以上に増えている。新たなプールを海水浴場に開設、集約することで、さらなる観光客の増加につなげる。海水浴場の監視員とプールの監視員も兼ねられることから、人件費を抑えられる利点もあるという。
紀伊長島レクリェーション都市開発によると、新しいプールは海水と淡水のプールを整備予定。これに伴い、管理棟などの整備も検討している。淡水プールは2つで、130平方メートルと、子供用の170平方メートルのものを建設予定。海水プールは海水浴場の波打ち際に2つ設置し、オフシーズンにはカヌーなどがこげるようにする計画。駐車場や管理棟などの整備を含む最終的な完成は令和8年度を目指す。淡水プールは令和5年のオープンの見通し。総工費約5億円を見込む。
来夏には、尾鷲市と熊野市をつなぐ自動車専用道路「熊野尾鷲道路」(延長24キロ)のうち、建設中の2期工事区間(延長約5・4キロ)が開通する見通し。開通すれば交通アクセスが向上する一方、大都市に人などが吸い寄せられる「ストロー現象」が懸念される。東紀州地域に観光客を呼び寄せるためには、新たな観光拠点づくりが急務だ。
同社の小山敏明専務は「城ノ浜海水浴場を観光コンテンツとして、たくさんの人に東紀州に来てもらいたい」と期待する。「海上アクティビティーなどを取り入れ特色を持たせた海浜リゾートとして、家族や若い人に向けた遊び方を提案していきたい」と話す。