伊勢新聞

2020年8月23日(日)

▼三重県津市の診療所の新型コロナウイルス感染者を県が「会社員」と公表したのは鈴木英敬知事が「事実に基づいた冷静な対応のお願い」として「大切な信頼関係や社会のつながりを壊さないため」とデマや誹謗(ひぼう)中傷の根絶を呼び掛けた翌日だった

▼県と県民との信頼関係を損ね、正しい共通認識で成り立つ社会のつながりを壊したが、デマや誹謗中傷の流布につながる発信だったと認識したかどうか。約10日後に陳謝した知事は「県民に的確なリスク情報を知らせる点で適切ではなかった」と述べただけである

▼感染者に占める外国人の割合が増えていると発表した21日の会見では、併せて「誹謗中傷や差別、偏見は厳に慎んでもらいたい」。「外国人」と特定したことで誹謗中傷や差別や偏見の助長につながりかねないことを、今度は十分承知していると見られる

▼外国人の人権問題は、平成9年の「人権が尊重される三重をつくる条例」制定以来、県の人権施策基本方針の中で不動の課題となっている。新型コロナがアジア発祥とされた当初、欧米では、日本人らが排除や暴力の対象になった

▼「早期の相談や受診につなげたい」としながら、差別の火種に火をつける。外国人支援と言いながら、日本人防御でもある。障害者、高齢者ら人権課題の対象は属性で語られることで差別が拡大されていく

▼せめて「家庭内での対策徹底」を求めた2日前に傾向分析の一環として同時発表できなかったか。人権と言えば表面化したいじめや障害者など個別問題だけで、施策全体を語ってこなかった鈴木県政の行き着く先ではある。