伊勢新聞

2020年8月21日(金)

▼障害のある44歳=当時=の次女を殺害したとして、71歳の母親が逮捕された。「娘の世話をするのが体力的にも限界で楽になりたいと考えていた」と話しているという。「老老介護」に並ぶ「老障介護」という高齢化社会の闇が、県でもぽっかりと口を開けた

▼詳細は不明だが、いくつかのキーワードはある。一つは、現場が自宅ではなく、福祉施設でもなく「宿泊施設」ということである。死に場所を探していたか。頼る場所がなかったか。44年間、母親はほとんど独力で次女の世話をしていたことがうかがえる

▼日本の障害者のほぼ60%は母親と同居といわれる。福祉の力に頼らないのが特徴で、自分が元気なうちは自分が手元で、という愛情からだが、同時に、そうした母親らの将来の最大の不安は、自分に何かあったら子どもはどうなるか、だとされる。行き着く先が、介護疲れや体調の変化で自身がうつ状態になると子殺し、子どもを死の道連れにする

▼親殺しが重罪とされた日本の旧刑法の考えは今も精神風土の中に生き続け、子殺しには同情が集まりやすい。虐待事案ではしつけ、子どもは親のモノという根強い意識と対立することがしばしば。障害教育でも、学校側はしばしば児童より親の意向に気を遣う

▼「老老介護」あるいは「老障介護」の社会は、世の中の動向が強く影響する世界でもある。コロナ禍の中で、先に桑名市でも研修だけで雇用契約を破棄された青年が助けを求めた福祉事務所で、たらい回された事例があった。二重、三重の絶望が子殺しへのトビラを開けたのかもしれない。