伊勢新聞

2020年8月18日(火)

▼2000年は食品偽装事件の幕開けであり、企業代表らによる連日の謝罪会見が開かれる中で、国民が納得する謝罪はどれかの調査があったが、もっとも好感をもって受け止められたのが、食品とは関係のない芸能事務所、石原プロモーションだった

▼平成15年、テレビドラマ『西部警察』のロケ中に車が見物人に突っ込み、5人が重軽傷を負った。社長の渡哲也さんは病室で土下座して謝り、会見でも深々と頭を下げ、放送の打ち切りを決めた。芸能事務所として役割を近く終える石原プロのターニングポイントにもなる事件だが、責任を認めるとしながら何の行動もとろうとしない現在の風潮と比べても、その潔さは傑出していた

▼渡さんが亡くなった。ファンはそれぞれに思い入れはあろうが、個人的には『無頼シリーズ』『祇園囃子』など好きな映画やドラマは別にして、直腸ガンを患って人工肛門をつけることになった時、「自分の美学に反する」と拒否したという報道があった。まねはできないが、心に問いかけようと思ったことである

▼脚本家山田太一さんがハリウッド映画を評したことがある。コンピュータグラフィックス(CG)を使ってスケールの拡大で観客を呼ぶ流れはいずれ行き詰まる、飽きられることになる、その点人間を掘り下げる日本映画やドラマは―ということになるのだが、人間心理をちまちま描く、あるいは意外性で引きつけるヒューマンドラマより、スカッとするアクションドラマを見たい人も多いのではないか

▼格好良さで見習いたい、目標にしたい最後のスターだった気がする。