伊勢新聞

2020年8月12日(水)

▼日航ジャンボ機墜落事件から35年。日航は風化防止のため、当時を知る社員が経験をビデオカメラの前で語り、映像として伝えていく計画を進めていくという。遺族ととともに事故と正面から向き合う姿勢は、ほかの公共交通機関の大事故対応に比べ傑出している

▼戦後75年の節目の今年。鈴木英敬知事はコロナ禍で政府主催「全国戦没者追悼式」の出席をやめた。全国各地で原爆や戦争の犠牲者を慰霊する式典の中止が相次ぐ。被害者、遺族の高齢化で活動そのものを停止する動きにコロナが追い打ちをかけた格好だ。戦争や核兵器の記憶の風化を防ぎ、その廃絶活動をどう継承するかに各団体は頭を悩ましている

▼去る者は日々に疎し―は、死んだ者が月日とともに忘れられていくのはやむを得ないことという中国の古書の一節。日本のことわざには「死んだ子の年を数える」があり、今さら言っても仕方ないことの例え。水に流すなど、日本人は特に過去のことを忘れる傾向が強いようで、県庁のさまざまな不祥事などにも思い当たることは多い

▼三重大学の朴恵淑教授が昭和の末期来日したのは、ソウルの公害問題を解決するため四日市公害を学ぶためだったが、県庁には資料はなく、三重大に残っている程度だったという。国の不興を買いながら、のちに国の公害行政のさきがけとなる環境条例を整備した経緯などもはや知る由もないに違いない

▼三重ごみ固形燃料(RDF)爆発事故から17年。今年の安全祈願式はどうなるか。歴代企業庁長の証言を集めて映像化するのも職員の風化を防ぐ妙案である。