<まる見えリポート>「都シティ津」来月休業 中心市街地の〝地盤沈下〟懸念

【テナントの撤退や休業が相次ぐ津センターパレス=津市大門で】

三重県津市中心部の代表的なホテルの一つとして旧津都ホテル時代から親しまれてきた「都シティ津」。9月1日からの休業の知らせに、地元関係者は「象徴的なホテルがなくなれば、中心市街地の地盤沈下につながる」と今後の行く末を不安げに見守る。実は、この休業発表の2週間ほど前、ホテルを経営する「津センター」の社長を前葉泰幸市長が辞任していた。歴代市長が務めてきたポストを明け渡す異例の対応に「逃げに入ったんちゃうんか」と厳しい声も上がっている。果たして中心市街地は見捨てられてしまったのか。

ホテルは7月31日、ホームページ上で9月1日から当面の間休業すると発表。新型コロナウイルスの感染拡大で宿泊や宴会の需要が大幅に減退し、回復の見通しが立たないため。再開時期は未定という。

市などによると、ここ数年は訪日中国人観光客の利用が多かった。大型バスを停車させやすく、中部国際空港までの高速船乗り場に近い立地。都市部や人気観光地に向かう途中の宿泊先として選ばれていた。

それがこのコロナ禍でぱったりとなくなった。感染症対策で密集・密接・密閉のいわゆる3密を避けるため、屋内でのイベント開催を中止する傾向が強くなり、宴会の予約もキャンセルが相次いだ。

ただ、地元関係者が今回の休業に危機感を抱いているのは、突然社長が交代した点だ。前葉市長は7月15日付でホテルの経営を担う津センターの社長を辞任した。後任は元市職員の橋本喜久男氏。その約2週間後には、ホテルの休業が公となった。

津センターは、近鉄が津都ホテルを撤退させる意向を示したことから設立された会社。市の第三セクター「津センターパレス」も出資しており、社長は歴代市長が務めてきた。

津センターに社長が交代した理由を尋ねると「(前葉市長の)一身上の都合と聞いている」と説明。ホテルの休業発表との関係性については否定したものの、今回の社長交代が「異例なこと」であるとは認めた。

地元関係者からは「市長が逃げに入ったのではないか」「市長が社長を務めているのにホテルを休業させるのは格好が付かないので、橋本氏が泥をかぶったのではないか」といぶかしむ声が上がる。

今回のホテルの休業で、津センターパレスに入居していた事業所が一時的とはいえまた一つ減ることになる。津センターパレスの賃貸収入は平成20年代前半は4億円台だったものの徐々に減少。令和元年度には3億2000万円にまで落ち込んでいる。同年11月末には市内を中心に展開するスーパー「マルヤス」などが撤退した。

市は「津センターパレスの2階以上は埋まっている」と説明するが、実態は市の関連団体や社会福祉法人の事務所などが中心。商業ビルとしての津センターパレスはもはや見る影も形もないのが現状だ。

周辺の商店街に影響はないのか。大門大通り商店街や丸之内商店街は「ほとんどない」と回答。ただ、大門大通り商店街振興組合の山田和弘理事長(80)は「中心市街地のイメージダウンにつながる恐れはある」とみている。

周辺の変化に対応するため、商店街も動き始めた。大門大通り商店街振興組合はホテルに宿泊する中国人観光客向けに運営していた免税店を夜間営業から昼間営業に変更。コロナ禍で中国人観光客が来なくなったため、今後は対象を一般向けに切り替える。

津センターの社長は辞任したものの、津センターパレスの社長でもある前葉市長。定例記者会見で今後の対応を尋ねると「市はあのホテルを不動産として持つ津センターパレスの筆頭株主。あの財産をなんとか活用しなければならない」との見解を示した。

自身も中心市街地で生まれ育った一人。「子どもの頃と比べると、周りの状況が大いに変わっている。今の状況に合わせないといけない」と主張。「大きな課題を背負ったという気持ちでなんとか向き合っていく」