新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ観光産業を盛り上げるための起爆剤として、政府が進める観光支援事業「Go To トラベル」が始まった。観光産業が盛んな県内でも期待が寄せられる一方、「詳細があいまいでまだ何も準備出来ていない。先走りすぎたのでは」(県内の旅行会社関係者)と戸惑いの声も。全国的に感染急増が止まらず、「本音を言えば、感染拡大しないか心配だ」(観光協会関係者)と不安の声も漏れる。観光地救済のため始まった「Go To トラベル」だが、肝心の観光地で期待と不安に揺れ動いている。
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「Go To トラベルにとても期待していた」と話すのは、伊勢市の旅行会社「有限会社日交旅行」の荒木伸明社長。コロナウイルスの感染拡大で3月以降、売り上げがほぼゼロに近い状態となった。そのため、需要喚起の同事業にかける期待は大きいとする。
ただ、対象業者になるには登録が必要。しかし、22日からスタートと銘打っても、観光庁から要件などが示されたのは直前の21日。さらに、「詳細が不明で、登録も済んでない」状況といい、「準備が整ってないまま、開始を先走りすぎたのでは」とする。
ようやく27日に県旅行業協会の説明会が開かれることになった。そこで疑問点などをぶつけるつもりだが、「果たしてクリアになるかどうか。できれば月末までに登録したいが」とする。
「Go To トラベル」は国内旅行を対象に、宿泊・日帰り旅行代金の2分の1相当額が支援される事業。同事業の対象となる旅行・宿泊業者は感染予防対策などの条件を満たした上で、参加登録が必要となっている。
しかし、4連休を前に22日からキャンペーンが始まったが、対応できていない観光・宿泊業者も多い。鳥羽市の旅館女将は「詳細を問い合わせようと観光庁に電話しているが、全くつながらない」と困惑気味。
一方、旅行客は戻りつつあり、4連休を含め7月はほぼ満室状態で予約は好調という。それだけに、「お客さんから問い合わせも多い。もう少し余裕を持ってやってほしかった」と複雑な心境をのぞかせる。
全国で連日、感染者が急増しているのも不安に拍車をかけている。「キャンペーンが原因で感染拡大がさらに広がってしまうのは正直怖い」と県内の観光協会関係者。観光施設やホテル・旅館には感染予防対策の徹底を求めている。一方で、「迎える側だけでは限界。旅行者にも対策をしっかりとってほしい」と訴える。
荒木社長も「『Go To トラベル』に期待していただけに、感染が広がってイメージが悪化するのを懸念している」と強調。「やっぱりやめます、とならないよう政府には慎重に対応してほしい」としている。
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安倍政権が推し進める事業だが、県内の自民党関係者からも期待と不安の声が交錯する。観光地が地盤の県議は「観光地では感染拡大にびくびくしながら、一方で旅行者増加を歓迎している複雑な状況」とし、「感染拡大に留意するため、まずは県民に県内観光をしてもらって、徐々に近隣県に広げていくといった段階を踏むことが必要だ」と指摘する。
県連関係者は「今はまだ、この時期にこの事業を進めることが良かったかどうかを判断するのは微妙」とする。
感染急増まっただ中に始まった「Go To トラベル」。鈴木英敬知事は会見で「県は感染防止対策の徹底と観光業の再生、この両方に向け全力を挙げたい」と強調している。