桑名市五反田源十郎新田の河川敷で、有害物質のPCB(ポリ塩化ビフェニール)を含んだ油が流出した問題。県がコスモ石油から解決金の支払いを受ける民事調停が10日に成立した。県は対策の総額に相当する約85億円の支払いを求めたが、最終的な解決金は6億円に。今後は県が同社に請求をしないとの条件も付いた。同社による油の流出はあくまで県の「推認」で、発覚から10年を経た今も「真犯人」は見つかっていない。多額の税金を投じた対策費は誰が負担するのか。調停が成立しても解決には至らない。
油の流出は平成19年9月、員弁川に面する産業廃棄物処分場跡地で確認された。コスモ石油が県の要請に応じて22年3月まで油の回収などを実施。その後、PCBが油に含まれていることが判明した。
これを受け、県は22年4月から行政代執行で対策工事を進めている。油の流出を防ぐ鋼矢板の設置や付近を流れる支川の瀬替えなど広範囲に及び、令和4年度までの総工費は88億円に上る見通しだ。
県は対策工事の着手後も同社に油の回収を要請してきたが、同社は応じず。このため「第三者を介して解決を図る」として28年10月、同社に油の回収と処理を求める民事調停を四日市簡裁に申し立てた。
調停は14回にわたって開かれたが、県の狙い通りには進まなかった。双方の主張は平行線をたどり、申し立てから約1年後、簡裁の調停委員から「調停の打ち切り、もしくは金銭での解決」を提案された。
その後も県のもくろみは外れた。金銭での解決に応じた県は総工費とほぼ同額の約85億円を請求したが、PCBの関連費を除いた約16億円が積算の対象に。解決金は結局、その半額にも満たなかった。
さらには双方に債権や債務がなく、県は同社への請求を放棄することも調停の合意事項に盛り込まれた。廃棄物対策局の担当者は「こちらの主張も認められたが、譲歩せざるを得ない部分もあった」と話す。
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そもそも、なぜ県は事実関係や責任の所在を明確にさせる民事訴訟ではなく、話し合いで解決を図る民事調停を選んだのか。ある職員は「民事訴訟も検討はしたが、県が敗訴する懸念があった」と明かした。
県は油やPCBの投棄者を特定するための情報を持ち合わせていない。同社に油の回収を求めたのは、前身の大協石油が現場付近を平成5年まで処分場として使用していたことが理由。あくまで「推認」だ。
コスモ石油側も取材に対し、この問題に対して「当社の法的責任はない」と明言。PCBについては「製造や投棄はしていない」と主張する。それでも解決金の支払いに応じた理由は「社会的責任」という。
では一体、誰がPCBを投棄したのか。県は100人を超える関係者への聞き取りや埋設物の化学分析など、投棄者の特定に向けた調査を進めてきた。しかし、特定につながる「有益な情報はなかった」という。
一方、県は12月に対策を始める予定のエリアで埋設物を調べれば、投棄者の特定につながる可能性があると見立てる。長年にわたって調査を担当している職員は「まだ調査は終わっていない」と力説する。
鈴木英敬知事は7日の定例記者会見で「正直者がばかを見ることがないようにしなければならない」と、問題への認識を語った。対策費の回収だけでなく、公平性を担保するためにも投棄者の特定は急務だ。