▼多気町などが開いたスーパーシティ国家戦略特区の勉強会で、講師の片山さつき参議院議員が「まるっと全体が規制緩和できる地域にしたい」。岩盤規制とかドリルとなって打ち破るなど、ひところ安倍晋三首相が盛んに口にした規制緩和だがこのところ聞かなくなった。一人、意気軒高ではあるらしい
▼本来なら、地方創生・規制改革担当相だった昨年2月、スーパーシティ構想を実現する国家戦略特区法改正案を国会に提出する予定だったが、内閣法制局から疑義が出た。複数の規制を条例で一気に緩和するという目玉政策が、条例制定は法律の範囲内とする憲法に抵触する疑いがあると指摘されたのだ
▼在任中の成立は見送られ、日本中がコロナ一色になった緊急事態宣言発令のさなか、検察庁法改正案のように目立つことなく審議され、宣言が解除された5月25日の2日後、参院で可決成立した。「全体が規制緩和」できるかどうかは、各省庁それぞれの判断を待つという従来方式とさほど変わらぬ仕組みとなった
▼片山前担当相は「AI(人工知能)やビッグデータを活用して便利な暮らしをやろうとしたら壁があちこちにあり」とも述べ、全体の規制緩和にこだわる。信念はともあれ、あちこちの壁の一つが憲法だったことをどう思うか。規制すべて「悪」みたいな話はいただけない
▼世界で一番ビジネスがしやすい環境と首相が意気込んだ戦略特区だが、加計問題の後味の悪さだけが残る。「便利な暮らし」はいいが自由やプライバシーの懸念は消えない。行政と事業者一体の推進というのもうさんくさい。