伊勢新聞

2020年6月19日(金)

▼高齢者の移動のための4市町の先駆的な取り組みを、県がモデル事業に選定した。地方の抱える古くて新しい課題で、鈴木英敬知事は「(免許返納には)移動手段の確保が必要。福祉と交通が連携した先駆的な取り組みを県内に広く展開したい」

▼選定された桑名市は、大規模団地で高齢化やバス運転士不足のため、生活路線の維持を目ざし、亀山市は市内全域デマンド型乗合タクシーの予約を前日から当日へ利便性をあげる。鳥羽市は離島の人口減による閉店や医療機関閉院対策として、公用車を通院に役立て、紀北町は公用車によるデマンド運送をより効率化し、観光客の利用にも視野に入れる

▼課題は地方市町が現在、そしてこれからさらに深刻になる問題点を浮き彫りにする。「福祉と交通の連携」「先駆的取り組み」で解決するかどうか。桑名市の大規模団地や鳥羽市の離島に共通するのは現象面としては高齢化や人口、人手不足だが、直面しているのは閉店や閉院に伴う〝買い物難民〟の発生で、むろん両市だけの問題ではない

▼県はかつて福祉先進県を自称した。全県民の幸せや豊かさを提供する広義の福祉の理念だが、今は高齢者や障害者など狭義の福祉へと進行した。「福祉と農業の連携」がそうで、「福祉と交通が連携」も間違いなくその流れである

▼商業施設、医療機関が撤退し、公共交通路線が廃止となり〝買い物難民〟が発生するというのが新しい構図。今後さらに進もう。先駆的であろうがなかろうが、狭義の福祉や交通手段を公共で肩代わりする形で繕ってもどうかなるものではない気はする。