伊勢新聞

2020年6月18日(木)

▼2人乗り自転車というのは懐かしい。石坂洋次郎原作の青春映画『青い山脈』で男女の学生が「若く明るい歌声に」と歌いながら、高原を走る画面が目に焼き付いている

▼何度も映画化されたが、同時代で見たのは吉永小百合主演の昭和38年日活作品。高度成長期目前で明るい未来を予感させた。最も名高いとされる初回は伝説の女優原節子主演で昭和24年作。ブルジョア新聞連載小説をなぜ東宝が、の労働組合の批判に今井正監督は「戦時中抑圧されていた若い男女が一緒に町を歩く、それだけでも意味がある」と反論したという

▼県議会で観光の誘客や視覚障害者への配慮を理由に2人乗りのタンデム自転車の公道走行解禁を求めた。岡素彦県警本部長は「新型コロナで観光地の要望が多ければ夏休みまでに見直す」。初回作品をDVDで見ていたか。議場から「おお」とうなり声があがったという。抑圧からの解放感もあったかもしれない

▼答弁が明瞭で、率直な感想を加える。これまでの本部長とは一線を画す存在らしい。先の議会でも、視覚障害者用音響式信号機の午後8時停止について「いかにも早いと見る向きもある」と答えた後に「私もそう感じる」と続け異彩を放った

▼津駅周辺の歩行者信号などに24時間稼働の音響式を採用し、真夜中でもけたたましく、故障で鳴り続けたりしたのを思い出す。あつものに懲りて、現在があるのかもしれない

▼歩道の自転車走行は危険を感じさせるが、2人乗りが公道と歩道を縦横に行き来すると考えると身の毛がよだつ。解禁の趣旨の適切な運用を願いたい。