伊勢新聞

2020年6月17日(水)

▼マイナンバー訴訟は福岡地裁で6件目の判決があり、「個人情報が漏えいする具体的な危険性はない」と、原告の訴えを退けた。これまでの流出は人為的ミスで、構造的不備ではないそうだ。流出された側はどこにも文句を持ち込み先はありませんよと言っているようで、念の入ったことではある

▼番号にプライバシー情報は含まれておらず「新たな個人情報が可能になったものではない」とも。ひも付きが進もうという中で木で鼻をくくったような判決だが、性別欄に望まない性の記入を強要されるという原告側の主張に、判決は同欄を隠すケースの配布などの対策が講じられているとした。記入させられることが苦痛だと言っていることを理解できたのかどうか

▼身元や思想信条を就職の採否に反映させないため、本籍地や出生地、家族構成などを履歴書やエントリーシートに書き込むことは禁止になった。平成17年からはさらに保護者氏名欄の削除も始まった。その2年前からの県の取り組みが結実した形

▼親と離れて施設で生活していた生徒が保護者欄の記入に悩み、空欄で提出し、記入漏れを問う面接官とのやりとりでつらい思いをした。担任が同欄の差別性に気づき、同僚らと削除運動を始めたという。記入させることが憲法上どうか。内容は制度上非公開で、流出したのは人為的ミスかどうか、という問題ではないのである

▼コロナ禍でマイナンバー制度の必要性が指摘されている。だからこそ、一向に普及しない理由の一つである国民の不安をせめて払拭する側からの視線で裁判官も制度を見れないものか。