伊勢新聞

2020年6月16日(火)

▼東京都の休業要請解除対象にのぞき劇場など風俗店が含まれていたと知人が感に堪えていた。「こういう趣味の人も犯罪を犯さずに暮らせる場所があるんですね」。テレビ局アナの住居侵入事件に絡んでの女性の感想だ

▼のぞき趣味について大いに弁じるところがあった。ヒッチコックの名作映画『裏窓』は他人の私生活をのぞき見るのが物語の背景だし、テレビのサスペンスには隣室の売春婦の生態を天井裏からのぞき見たことが事件の発端となる『刑事の証明』など数多い。そう力説し、何だか窃視者の味方をしているようなおかしな気になったが、理解を得たとは言えなかったのは当然である

▼もっとも、のぞき趣味が男性特有かどうか疑問ではある。シェアハウスでの共同生活を記録するテレビ番組に出演した女子プロレスラーがネットでの誹謗中傷が相次いだことを苦に死亡した問題について、先の県議会で谷川孝栄議員が「許しがたい人権侵害」とし、岡村順子環境生活部長も人権教育を徹底すると答えたが、同番組が中止になったのは周知の通り

▼私生活をリアルにのぞき見る番組が日本だけでなく欧米でも高視聴率で、参加者の自殺が多いことも事件は明らかにした。テレビだけでなく、週刊誌が先駆けるタレントなどの恋愛、不倫情報も読者、視聴者に好評。自分が関係者であるかのように悲憤慷慨するのもよく知られる

▼誰もが人権侵害などとは思いもしていない。現実と仮想の区別がつかず、匿名性の陰で隠れていることの自覚もなく、思うままを投稿しているだけだ。1億のぞき見社会と言えようか。