三重県志摩市を舞台とした劇場用映画の製作が発表された。「ALWAYS三丁目の夕日」を手がけ、平成27年12月に急逝した志摩市出身の映画プロデューサー故・山際新平さん(享年56歳)の遺志を継ぐ形で、伊勢市出身の脚本家児島秀樹さん(64)が脚本を書いている。関係者らは「新型コロナで落ち込むこんな時期にこそ映画で元気を届けたい」と力を込める。
映画のタイトルは「法定相続人(仮称)」。志摩で真珠養殖業を営むとある一家を中心に、6億円の価値を持つとされる伝説の真珠のありかを知る父親の認知症を発端に発生する家族の騒動を描いた社会派コメディという。
児島さんは10年ほど前に山際さんと知り合った。山際さんが会社を独立してからは共に仕事をするようになり、NHKの連続ドラマ「洞窟おじさん」や山際さんの遺作となった映画「スクール・オブ・ナーシング」の脚本も務めた。下積みを共にした言わば「戦友」のような間柄だったという。
5年ほど前、山際さんから児島さんに「地元を舞台にきちんとした映画を撮影したい」と相談があった。山際さんは実家が真珠養殖業だったこともあり、「志摩は真珠誕生の地でありながらまだ世界にあまり知れ渡っていない。映画を通じてこの地に注目してもらい、観光地として盛んになってほしい」と話したという。
山際さんの熱意を受け、児島さんは脚本を執筆。岩下志麻さんをはじめキャスティングも概ね決まってきた最中、突如として山際さんの訃報が伝えられた。
一度は頓挫した企画だったが、山際さんが設立にも関わった賢島映画祭で審査員として地元の熱意に触れる中で、「何とか形にできないか」と企画への思いが再燃。「利休にたずねよ」「海難1890」などの映画監督、田中光敏さん(61)に昨年、話を持ち掛けたところ、快諾。映画製作が再始動した。
児島さんは過去の脚本を全て廃棄し、一から書き直しているという。「田中さんとはもっと遠くに投げるボールのような映画を作りたいと話をしている。海外で勝負できる映画を作りたい」とし、「コロナの影響で撮影所は閉鎖しているが、こんな時代だからこそ地方から文化を絶やさずに発信したい」と語った。
志摩市役所で5月26日に開かれた製作委員会の発表会では、映画の概要について説明があった。来年秋から数カ月にわたって志摩市や伊勢市、南伊勢町などを舞台に撮影する予定で、再来年秋ごろの公開を目指すという。先行して6月1―3日には台本を書くため下見や取材をするシナリオハンティングが行われる。
田中監督のビデオメッセージも紹介され、「素晴らしい伊勢志摩の自然、三重の文化や人々と出会って日本中が面白いと言ってもらえるような映画を三重の皆さんと作り上げたい」と話した。
プロデューサーの一人でもある映像製作会社「KickSmash21」代表の東友章さん(40)は「昨年はアコヤガイの大量死など暗いニュースが多かった。いいニュースを提供することが自分の使命」と話した。
児島さんと田中さんを引き合わせた、同じくプロデューサーとして名を連ねる志摩市観光協会シニアアドバイザーの大塚万紗子さん(71)も「真珠養殖発祥の地として世界に見ていただける映画を作りたい」と期待を寄せた。
伊勢志摩フィルムコミッションによると、志摩市を含めた伊勢志摩地域での映画のロケ撮影は、三島由紀夫原作の「潮騒」をはじめ近年では「きいろいゾウ」「半世界」など42作品を数える。同担当者は「まだ詳しい話は聞いていないが、地元としてはうれしく思う。今後協力できることがあれば全力でサポートしていきたい」と話した。