伊勢新聞

2020年5月29日(金)

▼ウイルスの恐ろしさを県内で初めて知ることになったのは昭和62年に起きた三重大医学部付属病院の劇症肝炎感染事件ではないか。B型肝炎ウイルスが感染後、劇症肝炎に変異し、医師2人が死亡。重症の看護師1人が一命を取り留めた

▼いまだ謎の残る事件だった。B型肝炎の患者から感染したに違いないが、経路が分からず、三重大側も記者会見で、注射針を刺した可能性に触れたが、その点では専門家であるはずの本人らの確認は取れず、3人の同時発症も針刺し事故にしては異例だった

▼当時死亡例の調査はなく、事件は全国から注目され、医療従事者に恐怖が広がった。ワクチンは高額で個人負担。前例のあった三重大でも接種はしていなかった。県は急きょ、県立病院の医療従事者に無料でワクチンを接種させることにしたが、県関係福祉施設から猛烈な不満が寄せられた。入所者の中にも無症候性の保因者はいる。けがをさせられることも珍しくはない。危険極まるというのだ

▼県は新型コロナウイルス感染者の治療や検査などに当たった医療従事者に最大5万円相当のカードを配る。感染の恐怖や差別の中での対応に「感謝の気持ちを表すのは当然」と鈴木英敬知事。対象は「治療、検体の採取」者だそうだが、薬剤師や検温、問診した職員らはどうなるのか。一将功成り万骨枯るのもどうかという気はする

▼コロナ禍で新たに病床も確保できた。民間協力が得られたということだろう。今年の人事で見慣れぬポストに厚労省出向組がいた。医療機関再編も「新しい生活様式」に配慮しなければなるまい。