2020年4月30日(木)

▼日ごろ行政情報の公開、公表を求めている仕事柄、公表を〝罰則代わり〟に使う行政の常とう手段には抵抗がある。新聞に名前が出ることを恐れる一部の風潮を助長して新聞と読者との距離を広げ、報道の正確性や公権力の監視のためと報道機関が考える実名主義がゆがめられるという気持ちもある

▼大事件や自然災害の被害者名などは個人情報やプライバシー権などを理由に公表を渋るのに、行政の意向に沿わない相手には法や制度を駆使し公表を可能にする。ご都合主義にも見えてしまうのだ

▼プライバシーも個人情報も、憲法13条の幸福追求権、個人の尊重に基づいた概念である。いわば憲法が保障する権利を、新型コロナウイルス禍では知事の「強い措置」というだけでできてしまう。違和感はぬぐえない

▼名前を公表するからネットで大いに拡散し、マスコミは尾ひれを付けて報道して、みんなで袋だたきにしてもらいたいと言っているわけではあるまいが、やり玉にあがっているのが先にはパチンコ店、今度はバーやラウンジで、いかにも感はある。県民から不安の声が寄せられ、県職員が訪問や電話で休業を求めているという

▼「万が一感染者が出たら、客やスタッフを守れなくなる」と鈴木英敬知事。が、応じない理由について問われ「雇用や売り上げのためと思うが、制度が周知されていないこともあり得る」。きちんと聞き取ってはいないということか

▼感染防止策をどんなに講じても、聞く耳は持たれなかったのだろう。行政権は、弱い立場の方から振るわれていくのは、歴史の語るところではある。