伊勢新聞

2020年4月10日(金)

▼交通事故を間近で見たことがある。危ういハンドルさばきの無灯火の自転車に乗った中年男性とすれ違った直後、爆音を上げて改造車らしき車が通り過ぎ、ガシッという嫌な音がした。倒れて動かぬ中年男性を、車から降りた若者が「すいません、すいません」と呼びかけていた。震えるような声がいつまでも耳に残った

▼三重大教授が事故を起こし、現場を離れ、のち出頭した報道があった。「気が動転し」という警察から聞いたコメントが掲載され、ひき逃げ扱いだったが、本人は憤慨していた。逃げたのではなく、連絡しようと近所に向かっただけという。携帯電話のない時代だ。今度詳しい話を聞いてと頼まれたが、「今度」はなかった

▼交通事故は、時に善良な市民を一瞬で加害者と被害者に分ける。地位も外見も関係なく、それぞれ言い分があり、警察の見方といえども必ずしも一致しない。四日市市の市道で3月30日発生した女子高生死亡のひき逃げ事件で、19歳のとび職少年が逮捕された

▼上司に告白して、上司から7日夕通報があった。自首が成立しているという。怖くなってつい逃げてしまったか。前日夜、警察は検問し、チラシを配って情報提供を募った。現場のプラスチック片から車は白のワンボックスと分かっているとも報道された

▼フロントガラスなどが大きく破損した車の処理に困ったには違いない。女子高生を放置した理由は今後の取り調べを待つしかないが、動転したではすまない問題である

▼なぜ事故は起きたか、警察には道路の構造を含め、深掘りして原因を解明してもらいたい。