伊勢新聞

2020年4月3日(金)

▼道路は人や獣が歩くことで自然発生的にできた。生活の多様化で人間はより使いやすい道路をつくるようになり、縄文時代前―中期の三内丸山遺跡から幅約12メートル、長さ420メートルの舗装道路が発見されている

▼道路の主役が自動車で、人間が脇に追いやられたのは近代からだが、新しい国道はともかく、県道や市道などは人間疎外の歴史の〝遺跡〟が色濃く残る。すぐに修理される車道に対し、歩道は陥没しても放置されたり起伏が激しかったり。乳母車を押す保護者は決死の覚悟がいる

▼ウオーキングに励むお年寄りが歩道横の車道に下りて歩くのもそのためだ。衰えた視力では思わぬ凹凸につまづいて骨折し、寝たきりになりかねない。ランニングする若者も歩道を避け、車道を走る

▼歩道があれば逃げ場が確保されていてまだ安心だが、歩道がない道路は多い。はなはだしいのは歩道が途切れてしまう。片側の歩道だけが消えてるケースも。危険へ、危険へと建設、維持者が歩行者を追いやっているのかと錯覚させる

▼30日ひき逃げ事件のあった四日市市の市道はどうだったか。片側だけ歩道があり死亡した15歳の女子高生は反対側の車道に倒れていたという。歩道が途切れたか、片側の歩道だけ途中からできていたか、歩道側から飛ばされたか。市道へと入った場所がたまたま歩道のない側だったか

▼夜9時である。歩きやすい車道をそのまま歩くこともあるかもしれない。ひき逃げした犯人への憎しみとともに、多くの人がヒヤリ体験をした人間疎外の現場で、悲しい事件が起きてしまった気がしてならない。