伊勢新聞

2020年3月30日(月)

▼首相記者会見を伝えるテレビニュースで安倍晋三首相の顔が大写しになり「この戦いは長期戦を覚悟していただく」。国民の協力を呼びかけたのだろうが、その厳しい表情、日ごろの言動から〝戦争状態〟を示唆しているようで、米同時多発テロ事件でブッシュ大統領が「テロではなく戦争」と国民を鼓舞したことを連想する

▼戦争放棄をうたう憲法を持つ国のリーダーとしては、そんな連想は大いに迷惑なことに違いないが、2月末の会見では検査態勢の充実に民間機関など「総動員する」と語り、この28日の会見では、財政、金融、税制を「総動員する」

▼「動員」は「軍隊を戦時体制に移すこと」「戦争目的のため資源や人間を統一管理のもとに集中すること」と広辞苑。今は「転じてある目的のために人や物を集中すること」の意で使われるのは当然だが、戦時中は「国家総動員法」というのもあった。平和の時の宰相として、公式の場でこだわりなく使う言葉かどうか

▼「戦争」という言葉は多くの人間の闘争本能を刺激する力があるのかもしれない。ブッシュ大統領は空前の支持率を獲得し、アフガン戦争、イラク戦争に突き進んだ。情報の正確度などお構いなしの状況を作り出した

▼首相判断で「緊急事態宣言」を出せる特別措置法も、多くの国民に支持されている。後追いから先取りへ、対策を一気に転換する好機ではあろうが、一斉休校を要請した半面、基礎疾患者を抱える医療・福祉施設で集団感染が起き、先取りの危うさを示す

▼特措法が何かの前例にしないことも「テロとの戦争」の教訓である。