伊勢新聞

2020年3月24日(火)

▼無観客で開催された大相撲春場所の初日を終えた横綱白鵬は「不思議な感覚だったが、もう分かった」という趣旨の発言をした。翌日からは平常通り、の気構えがにじむ

▼44回目の優勝を飾った千秋楽。「気持ちが上下した」と荒い息の中で15日間を振り返った。熱心な相撲ファンは知らず。テレビ桟敷だけ、しかも深夜のダイジェスト版で十分のずぼらなファンとしては、観客がいようがいまいが、ダイジェスト版があるなら異存なしという感覚だった

▼初日の視聴の結果は厚かましきことながら白鳳と気持ちは同じだった。異様な雰囲気がダイジェスト版からも伝わってくる。なるほど無観客とはこういうことかと実感したが、翌日からの観戦に影響するとは思わなかった。しかし2日目、3日目と進むにつれ、慣れよりも重苦しい気持ちの方が大きくなった

▼勝負の楽しみは変わらずとも観客の歓声、ブーイング、静寂などの反応が一体となって大相撲の迫力を生み出している。興業として発達してきた伝統の意味を思い知った。商業主義に徹する五輪も似たようなものかもしれない

▼野口みずきさんがアテネで聖火ランナーの日本人第一走者となり、国内で吉田沙保里さんが受け取った。新型コロナウイルス禍が世界で懸念される中、日本では異論を封じ込める勢いで政府、スポーツ団体が開催一直線に進む

▼無観客相撲で大打撃を受けた茶屋などの二の舞になってはならじということだろう。選手ファーストが大義名分の開催運営が、ここに来て、政府やスポーツ団体首脳らファーストに変じてきた感がある。