伊勢新聞

<地球の片肺を守る>クイル州イディオファ編 踊る会合、ユニーク慣習

【ステップを踏みながら意見を述べる村の長老】

コンゴ盆地の森林減少の現場を実際この目で視察するため、今回、私は陸路による本格的な地方出張を企画しました。そして、キンシャサを出発して3日目の午後、ようやくコンゴ盆地周辺の村々にたどり着くことができました。コンゴ民主共和国の環境省に着任して1年数カ月…私にとって、今回が初めての集落訪問の機会となりました(詳しくは前回、前々回参照)。

事前に訪問の知らせが届いていたのでしょう。マンゴーの木がポツンと立った村の広場に簡素な木のテーブルと椅子が並べられていました。卓上に黄色い花が綺麗に並べられているのを見て、私たちは彼らが歓迎してくれていることを理解しました。

早速、村人とのミーティングが始まりましたが、話を始めてすぐ、私は彼らの言葉が聞き馴れたリンガラ語(コンゴで最もよく話されている現地語)と異なることに気が付きました。外見だけでは、その違いに気づきませんでしたが、彼らはブンダ族というクイル州イディオファ地区の主要民族だったのです。

言葉だけではありません。会合のスタイルも大変ユニークでした。話し合いの途中、突然村人から掛け声がかかったかと思うと、ある1人が皆の前に躍り出て、ステップを踏んで歌うように自らの意見を述べました。その意見に対する反論もまた踊りながら…。

話し合いが険悪な雰囲気になることを避けるために彼らが育んできた知恵なのでしょうか。私は彼らのこの独特の慣習にすっかり魅了され、議論をよそにカメラマンと化してしまっていました。

コンゴは日本の約6倍の面積を有し、国土の大半が熱帯林に覆われた世界有数の森林大国です。そしてその国土には、皆さんご存じのピグミー族をはじめ、数百にも及ぶ民族が各地域で固有の文化を育み、狩猟や農耕などそれぞれの生活を営んでいます。私はわずかですがコンゴの奥深さの一端に触れることができたことに多少の満足感を覚えていました。

さて話を戻します。幾つかの村々を訪問し、彼らと話し合いを進めるうちに、ある「深刻なこと」に気がつきました。それは、村人たちが、焼き畑農業、炭の生産や材木の売り払いなどのために近隣の森林が急速に減少していることを認識しつつも、そのことに何ら問題意識を感じていないことでした。彼らは、森林減少について話し合いの機会をもったことはこれまでたった一度もない、と私たちに話しました。

私たちは、「地球の片肺」の番人であるべき彼らが環境を保全することの重要性を全く理解せず、そのことが逆に森林減少に拍車をかける結果となってしまっていることに強い危機感を抱きました。しかし、一体どういったアプローチで彼らに環境問題の本質を理解してもらい、身近なレベルの森林減少に歯止めをかけていくべきなのでしょうか。

環境省の同僚は、話し合いが終盤に近づいた頃、彼らにこう問いかけました。「貴方たち大人は、(生きていくために必要不可欠な)大切な森林を、子供たちに残すことなく、自分たちの代で全部失くしてしまっていいと考えているのか?」すなわち、サステナビリティー(持続性)の重要性を彼らに説いたのです。とっさに私は、村長の隣で大人の真似をして腕を組み、静かに議論を聞いているかわいい子供たちを見つめました。

そして出張から数カ月後、突然、見慣れない番号が私の携帯を鳴らしました。何と私たちが以前訪れた村の村長からでした。彼は言いました。「森を守るために取り組みを行いたいが支援してもらえるか?」私は全く面食らってしまいました。彼らは私たちが去った後も、自分たちの将来について真剣に考え続けていたのです。「次は、私たちが何を出来るか検討する番だ!」私は同僚に話しました。

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市で育ち、三重高出身。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。