伊勢新聞

2020年3月8日(日)

▼鈴木英敬知事が県民に呼び掛けた「不要不急の海外渡航自粛メッセージ」に、県議会で三谷哲央議員が「一定理解」した上で「世間から見て不要不急でも、人生にとって極めて大事な旅行もある」
▼知事はカチンときたか。「全文を読んでもらうと分かる。一部だけ切り取られると、心外」。海外渡航をした場合やその後の対応も求めていることが「全文を読めば分かる」ことの中身らしい。議論がかみ合っていない気がしないか
▼感染症対策本部員会議後に報道陣を通じて自粛を呼びかけた知事は「本当は卒業旅行などに行ってほしい思いもあるが」とした上で「今は感染拡大防止に重要な時期」と続けた。卒業生にとって「人生にとって極めて大事な旅行」ではあっても自粛することを知事は言外に求めている
▼卒業式は万難を排して実施した。卒業旅行は一律自粛する。その違いを明確にするだけでも、議論はもう少し中身のあるものになっていたのではないか
▼自民党のいわゆる失言防止マニュアルは「発言は『切り取られる』」ことを冒頭に挙げて、強めのワードに注意するように求める。報道対策で議会対応ではないが「全文を読んでもらうと分かる」というのは、県民に分かりやすい発信を義務づけられている為政者が、発言を誤解された時の賢明な釈明とは言えない
▼特に県が発するスローガンや宣言、方針などはあらゆる内容を網羅する傾向にある。実行段階で優先順位やほとんど顧みられない施策があるのも周知の通り。発言を切り取られることより、どのように伝わったかが重要なのは言うまでもない。