私は今、コンゴ民主共和国の地方都市キクイットのホテルで、このコラムを書いています。着任後2回目となった本格的な地方出張も、ようやく明日が最終日です。
今回、私は同僚からの提案を受けて、森林が急速に減少している現場を視察することにしました。目的地は、キンシャサの東部に位置するクイル州イディオファです。キンシャサからイディオファまでは約750キロ。つまり、東京から青森に匹敵する距離を車で走破したところの森林で一体何が起こっているのか、この目で実際に確かめることが、今回の出張の目的でした。
私は早速同僚と相談し、1日目はキンシャサからクイル州最大の都市キクイットまで、2日目は最終目的地であるイディオファまで到達する計画を立てました。安全面に配慮し、2台の四輪駆動車で車列を組んでの旅路です。
出発予定日の朝、同僚がなぜか約束の時間にやって来ません。やれやれと思って電話をかけると環境大臣からの出張許可がまだ下りていないとのこと。コンゴ政府では出張のために大臣が直々にサインした出張命令書が必要なのです。「だから言わんこっちゃない…」夜間の走行は安全上問題があると判断した私は早々に延期を決めました。
翌朝、私たちは命令書を無事入手し、1日遅れで出発しました。キンシャサからキクイットまでは約600キロ、10時間の長旅でした。車窓からは地平線のかなたまで、見渡す限りのサバンナ(灌木の生えた草地)が続いていました。残念なことに、数十年前から続く焼き畑や製炭のため、風景からは既に森林は消えてなくなっていました。キクイットでは、どんなホテルに泊まる羽目になるだろうと少々心配もしましたが、電気(ただし夜間のみ)と水シャワーが使えて、インターネットもかろうじてつながりました。
そして2日目。この日はキクイットを出発し、最終目的地であるイディオファまで。事前の情報では未舗装道が大半とのことでした。しかし、イディオファの人口は約250万人。それだけの人々が住んでいるんだから、未舗装といっても、それなりに整備はされているだろう…私はそう考えていました。
しかし、イディオファまでの道のりは、そんな私の甘い考えを容赦なく吹き飛ばしました。昔、テレビでよく見た「パリ・ダカールラリー」顔負けの悪路が延々と100キロほど続いていたのです。
空にはまるで墨をぶちまけたような真っ黒な雨雲が広がり、激しい雷雨に打たれ、正午すぎだというのに、ライトを点灯しながらの走行を強いられました。道中、ぬかるみにハマっては、どこからともなく集まってきた村人や通行人に救出されました。「ここで引き返した方がいいんじゃないか?」私は何度、同僚にそうもちかけたことでしょう。
「この道なき道の終点で、『地球の肺』と呼ばれる貴重な熱帯雨林がどんどん伐採されている。専門家がその現場までたどり着けないようじゃ、対策も何もあったものじゃない!」私は暗たんたる気持ちになりかけながらも、自らに喝を入れました。
無理をし過ぎたのでしょう。途中、同僚が乗るもう1台にオーバーヒートが発生し、皆が私の車に乗り換えて、ぎゅうぎゅう詰めになって先を急ぎました。同じように、ぬかるみにハマって動けなくなった大型トラックを横目でやり過ごしながら、日暮れ前、私たち一行はギリギリのタイミングでイディオファの街に滑り込むことができました。(次回に続く)
【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市で育ち、三重高出身。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。