伊勢新聞

2020年1月27日(月)

▼天皇、皇后両陛下が愛子さまを伴い、大相撲初場所の14日目を観戦された。令和初の天覧相撲であり、皇太子夫妻時代の平成29年夏場所以来で、愛子さま同行は7年ぶり

▼八角理事長(元横綱北勝海)の案内で結びまでの九番、盛んに拍手を送られ、皇室と大相撲の変わらぬ関係を印象づけたが、天皇杯をかけた大一番がご一家の国技館到着直前に終わっていたというのは、日本相撲協会としても何ともバツの悪いことではなかったか

▼両横綱が休場で一大関の陥落が決まり、一場所復帰をめざした元大関が負け越しという締まりのない場所である。唯一、優勝争い先頭の平幕2人が1敗の好成績で並走していることが救いで土俵に緊張感をもたらしてきたが、その2人の直接対決が中入り前の最後、つまり天覧の一番前だった

▼この一番を制した幕尻の徳勝龍が翌日の千秋楽では結びで大関に挑む異例の取り組みが組まれている。一番か二番、後ろに移し、大相撲の醍醐味を味わっていただく配慮ができなかったかと思ったのは、そんたくばやりの昨今にどっぷりつかったせいかもしれない

▼十両を行ったり来たりの徳勝龍の相撲ががらりと変わったのは恩師の近畿大相撲部、伊東勝人監督の訃報が伝えられた7日目だった。甘さが消え、一本筋が入った厳しい取り口。後半続けて捨て身の突き落としで勝利したのも、どこか神がかっていた

▼「監督が見ているのではなく、土俵で一緒に戦ってくれている気がした」と優勝後に。〝荒れる初場所〟というより、人間の可能性と不思議さに粛然とさせられた場所だった。