2020年1月23日(木)

▼遺言書に妻の名で相続分が記されていたが、その妻とは三年前に離婚して、死亡した時点の妻は再婚した別人だった。元妻は相続できるのか―暮らしの中の法律相談を笑いの中で解決するNHK番組『バラエティー生活笑百科』の最近の相談例だが、法的判断を下す弁護士が、出演者の質問に「それは別の先生に聞いて」と答える場面があった

▼文面だけでなく、遺言者の気持ちをくみ取るようにというのが最高裁判例だとして、弁護士は遺言書が書き換えられていないことなどを根拠に元妻に軍配をあげる。では遺言書に「妻○○」と書かれていたらどうか。単に「妻」だったら元妻に権利があるのか。そんな質問に弁護士は答えに窮したのだ

▼分からないで済まないのは、裁判官はテレビ番組の弁護士の比ではない。盗難車が起こした事故訴訟で、車を盗まれた所有者に賠償責任があるかどうかの判断は大きく揺れた。一審は管理責任を認めたが賠償責任は否定。二審は両方を認め、最高裁は管理責任を否定した

▼ロックもせず、カギを車内の日よけに挟んだまま社員寮に駐車していて盗まれた。過去の裁判例は管理責任を認めているが、最高裁は会社が管理規定を策定していたことで、責任はないとした。このため、一、二審で争点だった事故との因果関係は言及しなくてもよくなった。運転手の責任は争いの対象外

▼路上停車し荷物を下ろすなどの隙に盗まれた場合はじめ、一、二審の論議も無にした形だが、結論は今後に威力を発揮していくのだろう。バラエティー番組の方が物事の本質を考えさせられる気がした。