「空飛ぶクルマ」の実現に向けて、三重県内各地でドローン(小型無人機)を使った実証実験が本格化している。観光や防災、過疎地対策などさまざまな分野での活躍に期待が寄せられる一方、法整備や技術面など課題は少なくない。夢にとどまらずに現実的な課題解決につながるか、今後の動向に注目が集まる。
アニメやSF映画の世界だけでなく、現実世界にも垂直離着陸や完全自動操縦を可能とする次世代モビリティ「空飛ぶクルマ」を登場させるべく、各業界での動きが活発化している。
経産省と国交省は平成29年に「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、技術開発や制度整備をまとめたロードマップを策定。試験飛行や実証実験を経て3年後の令和5年ごろをめどに事業をスタートさせ、10年後には都市部での人の移動を含めた実用拡大を目指すとしている。
これに合わせてベンチャーから大手までさまざまな民間企業が事業への参入を表明。新年に入ってからは愛知県豊田市に拠点を持つスタートアップ企業「SkyDrive」が初の有人飛行試験開始を発表したほか、自動車大手トヨタも開発ベンチャーへの投資を発表するなど注目を集めている。
三重県では、南北に細長く広がる地形とそれに伴う文化、産業面の多様性を「日本の縮図」として前面に押し出し、いち早く実証実験の誘致に向けた取り組みを開始。「地域課題の解決と地域における生活の質の維持や向上、新たなビジネスの創出」につながるとして、今年度当初、6月補正合わせて約1470万円を予算化し、「物流編」と「産業編」の2本柱で実証実験をスタートさせた。
志摩市阿児町鵜方の鵜方浜公園で今月10日に開かれた物流編の実証実験では、既にドローンでの物流事業を進めているネット通販大手楽天(東京都)が受託業者として、ドローンを使ったデモ飛行を披露。鈴木英敬知事や竹内千尋志摩市長らも実験を見守った。
実験では、同公園から海を隔てて約5・5キロ離れた離島・間﨑島の住民の注文に応じてドローンで商品を運ぶ。公園に隣接するスーパー「マックスバリュ鵜方店」の協力を得て用意した約200種類の商品から、一度に最大5キロまでの荷物を約15分かけて運搬する。
人口69人、65歳以上の高齢化率82・6%(昨年12月現在)の同島内に商店は存在せず、住民らは生活物資の購入を日に数便の定期船か、「もやい」と呼ばれる週3日、午前中限定の陳列販売に頼っている。
実験に参加した自治会長の岩城正幸さん(77)は「欲しい物がすぐ買えるのは便利で夢のよう。採算がとれるかは分からないがもし実現化してくれたら本当にありがたい」と話した。
実験はデモ飛行を除き15―19日の5日間実施。17日現在では延べ8人の利用があった。利用者からはおおむね好評だったが、雨や強風での飛行はできず、一度の積載量や商品の種類の少なさを指摘する声もあるなど課題も見つかった。
同社の安藤公二常務は「安定して長い距離、重い物を運べないと実用化はできない。荒天時の安全性や離着陸のハード整備、電源確保など課題は残っている」とし、法整備を前提に実用化を目指す考えを示した。
志摩市総合政策課の米奥宏規主査は「まだ少し先の話だとは思うが、実験の積み重ねから不便な地域の課題解決につながればありがたい」と期待を寄せる。
一方の産業編については、JTB三重支店(津市)と航空会社テラ・ラボ(愛知県春日井市)による共同事業体が事業を受託。既に熊野市、南伊勢町でドローンによる飛行実験を実施して観光産業での活用や課題抽出を進め、今月30日に鳥羽市内で実施する実証実験で集大成を図るという。
事業を所管する県中小企業・サービス産業振興課では次年度に向けて、環境整備やビジネスを見据えた飛行ルート策定、有人を含む実証実験誘致に向けた予算要求を進めるとしている。
同サービス産業創出班の森田茂樹主幹は「三重はサミットがあった伊勢志摩など世界にアピールできる部分は多い。三重県モデルをつくって取り組みを続け、地域活性化や利便性向上につなげたい」と話した。