2020年1月9日(木)

▼戦争中「ぜいたくは敵だ」という標語があった。敵の上に「素」の字を加え読む人がいた。「世の中に金と女は敵(かたき)なり、どうぞ敵にめぐりあいたい」は江戸時代の文人、大田南畝(蜀山人)の狂歌

▼落語の「まんじゅう怖い」と違うのは蜀山人が「めぐりあいたい」と願っているのではないということだ。そういう世を笑っている、苦々しく思っている。立ち位置は「武士は食わねど高ようじ」「宵越しの銭はもたねえ」である

▼江戸の川柳や狂歌は人間のあざとさをえぐり、自分は高見であざわらうところがある。「御気は短いに袴は長いなり」は浅野内匠頭の刃傷を対象にした江戸川柳。動きにくい長袴をはいているのを承知で「武士の情けじゃ、放してくれ」と血の涙を流している、と笑っているのだ

▼今やそういう〝高級な〟笑いの時代ではない。「地獄の沙汰も金次第」―厳正な地獄の裁きも金を握らせばなんとかなるの意味で、ゴーン被告の逃亡劇や統合型リゾート(IR)疑惑で見せつけられたばかり。欲望に素直だ

▼鈴木英敬知事の就任で「ビジネスチャンス」という言葉が知事会見にしばしば出るようになった。出身地兵庫県は知らぬが、いわゆる関西弁に直訳すれば「儲かりまっせ」ということか

▼伊藤徳宇桑名市長がIR研究について「県民を幸せにするならやるべきで、そうでないならやめるべき」。人口減少で財政難となる中で「研究する価値はある」。幸せとは、金があってこその話ということだろう。蜀山人没後約200年。品がどうこういう時代は過ぎた。「貧すれば鈍す」である。