伊勢新聞

2019年12月19日(金)

▼伊賀警察署の巡査が管内の住宅に侵入して室内を物色したとして逮捕された。調べてみると、それ以前に署内で同僚の引き出しやバッグから5万、3万円と盗んでいた。津地裁の公判はそんな内容だろう

▼追加送検された同署官舎や丸の内交番の分は不起訴処分に。住宅侵入がなかったら内々で済ましたかもかもしれないというのは邪推として、住宅は勤務交番の管轄内で「あまり人がいない地域と知っていた」。態様は悪質

▼検察は論告で「手慣れている上、大胆であり、盗癖が顕著」。手慣れているとは、住宅侵入のことか。盗癖は署内での連続窃盗か。ともあれ警察官としてあるまじき、である

▼窃盗の動機を問われ、恋人との今の生活を優先し「市民を二の次に考えてしまった」。刑事ドラマで聞いたせりふではある。罪を犯したのは同じでもきっかけは違う。ドラマの警官はギャンブルや酒におぼれたり犯罪が新たな犯罪を生んだりだが、元伊賀署巡査は、いわゆる小市民的生活を送りたいという思いが行き詰まった

▼報道で見る始めは昨年3月、中古バイク購入を親からの借金で賄ったこと。ローンで大型バイク、車購入と進み、自宅購入へと至る。恋人から「警察官という仕事はすごいね」と言われたことが、見えに拍車をかけざるを得なくなったらしい。ドラマにはなりようのない筋立てだ

▼物があふれすぐ手に入る錯覚に陥れられる現代。借金が奨励されもする。「他に方法がないと思って盗んだ」という。物質的豊かさが尊重される社会が若い警察官を絡め取った。同情ではないが人情において忍びない。