伊勢新聞

2019年12月6日(金)

▼紀北町立中一の理科実験で、フラスコが爆発し男子生徒一人と実験を指導した男性講師が顔と手首に傷を負い、耳に異常を訴えた生徒二人とともに病院に救急搬送された

▼亜鉛と塩酸をフラスコに入れて水素を発生させ、火を近づけて反応音を聞く実験。本来なら水素に火を近づけるはずが、手順を誤り事故が起きた、と見られる。逆に火に水素を近づけたのかというのは単純すぎる発想だとして、化学実験の危険はよく知られ、県でも初めてではない

▼NHKの高校講座では白衣を着て、ゴーグルのようなメガネをかけて始めるのが定番。事故から身を守るためと、危険な実験に向かうことへの心の準備の意味があるのだろう。紀北町立中はどうだったか。事故原因の調査と並行して、実験環境も調べてもらいたい

▼失敗学で知られる畑村洋太郎東大名誉教授監修のNHKドラマ『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』の主人公、天ノ教授の決めぜりふは「一つの失敗の背景には、運営側の慢心を含めさまざまなヒューマンエラーが隠れている」。失敗した本人に「関わったすべての人の失敗なんです」とも。事故原因すなわち手順の誤りを解明し再発防止のマニュアルをつくるだけでは、天ノ教授に言わせると「せっかくの失敗なのに、もったいない」ということになる

▼てきぱき客をさばくウエーターを、自分が考えて動くのではなく「マニュアルと経験に縛られた偽ベテラン」と断じ「最近増えた」。OECD(経済協力開発機構)学習到達度調査(PISA)の読解力急落の原因が分かる気がする。