伊勢新聞

<地球の片肺を守る>ヨウム、コンゴ代表する鳥

キンシャサの路上で売られているヨウム

「キューギイ、ギイ」東の空が明るくなり始める頃、鳥たちが騒ぎ始めます。目をこすりながら、時計を見るとちょうど5時半。アフリカ生活での私の一番のお気に入りは、南国情緒たっぷりの鳥たちの朝のコーラスです。何と気持ちがいいことでしょう!

この鳥たちのコーラスに、時々特徴ある鳴き声が交じることがあります。今回のコラムの主役「ヨウム」です。ヨウムはさまざまな音や声を真似て鳴き分けるのですが、決まって最後に「ギャーギャー」というダミ声で締めくくるので、「あっ今日はヨウムが来ているな」と分かるのです。

ここまで読まれて、「ヨウムではなくてオウムの間違いじゃないの?」と思われている方もいることでしょう。しかし間違いではありません。私もコンゴに来るまで知らなかったのですが、「オウム」とは一字違いで「ヨウム」という種類の鳥がいるのです。

先日、このヨウムをキンシャサの動物園で間近に見ることができました。全身がグラデーションのかかった灰色で尾っぽだけが鮮やかな朱色。見た目はオウムにそっくりです。しかし、オウムのトレードマークである頭の後頭部のピンとはねた冠羽が、ヨウムにはありません。このため、オウムもヨウムも、同じオウム目ですが、オウムはオウム科、そしてヨウムはインコ科に属します。つまり、見た目はオウム、分類学上は大型インコ、それがヨウムなのです。

ヨウムはコンゴ民主共和国を含め、中西部アフリカの森林地帯に広く生息し、コンゴでは「1000フラン」札にその姿が描かれています。また、先日、当地の自然保護協会(ICCN)の総裁を表敬したら、なんと彼はヨウム模様のスーツを着ていました(さすが総裁!)。つまり、ヨウムはコンゴを代表する鳥、きっと日本で言うところの「タンチョウヅル」のような存在なのでしょう。

しかし、ヨウムを取り巻く環境は年々厳しさを増しています。ヨウムはその愛嬌のある姿や人懐っこい性格などからペットとして世界中で人気があります。このため、生息する国々では乱獲され、さらに森林伐採など生息地の破壊も相まって近年、急速に数を減らしているのです。

そして2016年9月、とうとうヨウムはワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する法律)において、パンダやトラなどと同様、絶滅の恐れがある動物(付属書Ⅰ)に位置付けられ、商業目的の国際取引が禁止されました。

しかし、ここキンシャサでは、道路沿いやお店の前で、ヨウムが鳥かごに入れられ売られているのをたまに見かけます。小さな鳥かごに4、5匹詰め込まれ小さくなっているヨウム…「お父さん、ヨウムがかわいそう…」鳥かごをのぞき込みながらつぶやく娘。私も、ずんぐりした胴体に短い翼を羽ばたかせ元気に飛び去るヨウムの姿がまぶたに浮かび、複雑な気持ちになりました。

同僚に「ヨウムは国際取引が禁止されているんだよ」と言っても「そうなんだ、知らなかった」とそっけない返事。環境教育の重要さを今さらながら実感しました。コンゴの野生の象徴ヨウム…いつまでも私たちの目覚まし時計として、このキンシャサに居続けてくれることを願わずにはいられません。

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。