伊勢新聞

2019年12月1日(日)

▼産業廃棄物施設建設の「住民同意」条項を外した「新産廃処理指導要綱」(案)について、中川和也廃棄対策局長が三重県議会で「現行の合意形成手続きは一部の意見が反映されない可能性がある」。「一部」が産廃業者を指していることは言うまでもない

▼産廃法は、かねて業者に存分の行動を認めてきた。改正法で制約し、要綱は住民側に立って制定した。業者の意見が反映されず、その「財産権を侵害する恐れ」(廃棄対策局)があるのも当然だが、同局はまた「一部の住民が取り残される可能性」も改正の根拠とする。「全ての住民に公平」にするという

▼鈴木英敬知事の政策の根幹にそむかないか。知事は「戦略的不平等」を唱え、たとえ不平等であっても戦略的ビジネスに取り組むのであればよしとし、公平性が「悪平等」になるのを愚かとする。業者や近隣以外の住民を加えて住民同意の厳しさを薄めるのは「あしき公平性」にならぬか

▼時代が十年逆戻りした感がする。6月の「美里水源の森」オープンで、前葉泰幸津市長は昭和57年の同所での産廃処分場計画で市民の飲み水が危機にひんしたことを振り返る

▼急きょ水資源保護条例を作って勧告したが応じない。建設差し止めの仮処分を申請し、九年を経て和解が成立し、17年訴訟になった旧紀伊長島町の二の舞を回避した

▼裁判と条例が全国の自治体に警鐘を打ち鳴らしたと前葉市長は言う。多くの自治体、住民が法の不備で苦しんだ。高みの見物だった県がまたも机上の空論で規制緩和のかじを切る。県民セカンド、県ファーストにも困ったものだ。