<まる見えリポート>豚コレラ風評被害防げ ワクチン開始1カ月

【養豚場にワクチンを運ぶ獣医師ら=玉城町蚊野で】

豚コレラの感染拡大に伴って、養豚場の豚に予防的ワクチンを接種してから1カ月が経過した。接種に当たっては、養豚農家が「安心して消費してほしい」とする一方で、小売店からは「消費者にいまいち情報が伝わっていないのではないか」と懸念する声が出ていた。三重県は県産豚肉の販促キャンペーンや伝染病の名称変更など、あの手この手で風評被害の防止に取り組んでいる。

県内では、10月25日に豚へのワクチン接種が始まった。国の防疫指針では、接種後20日間は出荷を控えることになっており、今月15日から順次出荷が可能に。いなべ市の養豚場で殺処分が完了して以降、県内の農場で豚コレラの発生は確認されていない。

ワクチンを接種した豚の肉や加工品を食べても人体への影響はない。県養豚協会の小林政弘会長はワクチンを接種した豚の安全性について「13年前まで50年近くワクチンを打ってきたが、何もなかった。消費者には安心して食べてほしい」としている。

ワクチン接種を巡っては、小売店から風評被害を懸念する声が相次いだ。養豚業者や流通事業者などでつくる豚コレラワクチン対応連絡会議の10月の初会合では、小売店側の出席者は「豚肉が売れなくなれば、在庫を抱えるのはこっち」などと不安視していた。

こうした声を受け、県は接種豚の出荷に先駆けて県内の肉専門店やスーパーに職員を巡回させ、豚コレラやワクチンの安全性を説明。小売店が消費者からの問い合わせに答えられるよう資料を配付した。今月末をめどに対象の事業者700軒全てを回りきる予定だ。

また、県畜産課はバイヤーに県産豚の価格の変化を問い合わせ、風評被害の兆候がないか確認。今のところ大きな下落はみられていないという。「いなべ市で豚コレラが発生したときは消費者が冷静に対応していた。引き続き冷静に行動してくれると思う」とみる。

豚コレラのワクチン接種に関する県への問い合わせは1カ月で5件程度にとどまっている。県内で店舗展開するスーパーのバイヤー担当者も取材に「仕入れ前は気にしていたが、接種前とほとんど変わりない。消費者から問い合わせもない」と説明する。

例年、11―12月は鍋のシーズンで豚肉が消費されやすい時期。県は豚肉の買い控えを防ぐため、販促キャンペーンにも取り組む。スーパーに県産豚肉の試食販売の実施を働き掛け、ポップなどの広報グッズを飲食店に設置してもらうなどしている。

今月25日には津市内でブランド豚の生産者と流通事業者、飲食事業者の交流会を県が開催する予定。事業者に対し、県職員らがワクチンを接種した豚の安全性について改めて説明する。交流会を開くのは初めてで、風評被害を防ぐための取り組みの一環だ。

また、農林水産省が家畜伝染病の名称を「豚コレラ」から、国際的に使われている「CSF」に変更。人の伝染病のコレラを連想させて消費者に不要な不安を招かないようにするためとしている。県もこれにならい、11月13日からCSFに変更している。

ただ、この名称変更に関しては、風評被害を防ぐ効果に疑問符が付いている。スーパーのバイヤー担当者らは「名称が変わっても、売る側にとっては変わりがない」「名称を変更するならもう少し前にやっていたほうがよかったのではないか」と話す。

ワクチン接種前に懸念されていた風評被害。県は「消費者から一定程度理解が得られている」とみる。県の見方に対し、小売店側の見方はさまざま。「鍋用の豚肉の消費が順調に増えてきたので安心している」と安堵(あんど)を見せる店もあれば、「あまり問い合わせが来ないので、風評被害が見えていない」と慎重にみる向きもある。需要期に入るこれからが正念場になりそうだ。