先日、ある会議に出席するため、キンシャサの西隣のコンゴ中央州まで出張しました。渋滞が激しいキンシャサの街をやっとのことで通り抜けると、見渡す限り何もない、草原状の丘陵地帯に出ました。コンゴなどと聞くと、うっそうとした熱帯雨林に覆われた国を想像される方も多いかもしれませんが、森林率は日本とほぼ同じ7割程度。特に首都キンシャサの周辺地域には森林はほとんど見当たりません。一体なぜなのでしょうか。
そのヒントは、丘陵地帯の曲がりくねった道をドライブし始めて、すぐに見つかりました。炭です。トラックから乗用車まで、多くの車が炭をいっぱいに詰め込んだ袋を満載し、キンシャサに向かっていました。日本では炭と言えば、焼き鳥屋の備長炭くらいしか思い付きませんが、電化率の低いサハラ砂漠以南のアフリカ地域(「サブサハラ・アフリカ」といいます)では、調理や暖を取るため、まだまだ炭は欠かせない存在なのです。
国連のデータによると、近年、サブサハラ・アフリカでは炭の需要が急増しています。この背景にあるのは人口増加とそれに伴う急速な都市化。水道、電気や住居など生活環境の整わない中での都市への人口流入が、炭に対する需要を急増させているのです。電気を引くお金がない、電気はあっても停電ばかりで当てにならない、使う分だけ買えて便利、煙が出ず扱いやすい…こうしたことが、アフリカ都市部の特に貧困地区で炭が重宝される理由となっています。
そして、この炭の需要がアフリカの森林に甚大なインパクトをもたらしています。炭は木を切り倒して、その場で土製の即席窯をつくって生産されているケースが多く、その場合、歩留まりはわずか2~3割程度であると言われています。例えば、1世帯が30㌔の炭袋を1カ月で消費すると仮定すると、1000万にも及ぶ人々が生活するキンシャサでは、毎日いったいどれだけの木を伐採し、森林を消失させていることとなるのでしょうか。それはもう驚愕に値する数値となるはずです。
キンシャサのみならず、ナイロビ、ダルエスサラームなどサブサハラ・アフリカの多くの大都市が炭の問題を抱え、環境関係者にとって長年の頭痛の種となっています。私が以前、支援活動を行っていたマラウイでは、首都圏の水源林で違法な炭生産が横行し、これを取り締まるために政府は軍隊まで派遣したほどです。
そうした中、ここコンゴ民主共和国では、日本政府(国際協力機構=JICA)が、キンシャサに隣接するクイル州において、ノルウェーやフランスなどとも協力しながら貧困削減や気候変動対策、とりわけ炭生産による森林減少などへの対処として、5000ヘクタールにも及ぶ規模のアグロフォレストリー(農作物を栽培しながら同時に木も育てる環境保全に配慮した農林業活動)や植林活動などに取り組んでいます。
また、こうした活動と併せ、アフリカ最大級の人口を抱えるキンシャサにおいて、炭の代替となるエネルギーの普及に向けた取り組みも民間主導で始まっています。炭からガスに数年前に切り替えた私の同僚は、キンシャサで妻と子供の3人暮らし。彼は「炭とガスでは、むしろガスの方が安いくらい。人々はガスの便利さをただ知らないだけだ」と主張します。代替エネルギーの普及は、当地では気候変動ビジネスとしても大きな可能性を秘めています。
【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。