<まる見えリポート>増税後、消費下支えに一役 キャッシュレス・ポイント還元事業

【対象店舗に掲げられたキャッシュレス・ポイント還元事業の張り紙=津市内で】

10月1日の消費税率10%への引き上げから約1カ月が経過した。今回の増税に伴い、政府が打ち出したのがキャッシュレス・ポイント還元事業。消費者が対象店舗などでキャッシュレス決済を行った場合、5%ないし2%の還元が受けられるというもの。増税による消費の急激な落ち込みを押さえるとともに、中小規模事業者の売り上げ減少回避、キャッシュレス化による利便性向上を狙う。消費者や事業者から歓迎の声が上がる一方、恩恵の少ない店舗や現金派からは不満や困惑の声も漏れる。政府はこれを機にキャッシュレス化を推し進めようとしているが、浸透するか。

経済産業省などがまとめた11月1日現在の三重県内のポイント還元事業の加盟店数は7791件。最も多かったのは四日市市で1300件、次いで津市1299件とほぼ同数。最も少なかったのは木曽岬町で12件。全国では63万8175件となっている。

キャッシュレス化をめぐっては、普及が進む海外に比べ国内比率は2割程度のため、政府は5割に引き上げることを目標にしている。県も呼応し、10月に県キャッシュレス推進方針を取りまとめた。

県によると、平成26年の県内の小売業におけるクレジットカードと電子マネーの販売割合は全国4位(19・15%)で、もともと「キャッシュレス先進県」という。県内に浸透する大手スーパーの電子マネーとクレカの普及が押し上げているとの見方だ。

ただし、消費者意識調査では、キャッシュレス決済の導入に賛成との意見が全国45位とかなり低いといい、消極的な面もうかがえる。

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伊勢市小俣町で「イベリコ豚専門店 旨家どんぐり」など飲食店3店を経営する上田澄人代表は、増税に伴う還元事業をにらみ、早くからをキャッシュレス決済の勉強会を開いてきた。代表的なQRコード決済の一つ「ペイペイ」などをそろえ、5%還元を求める顧客を取り込む。

上田代表は「10月の売り上げはやや増加し、増税の落ち込みをカバーできた」と手応えを示す。イベントの屋台にも積極的に活用しており、「利用者は確実に増えている」としている。

津市東丸之内にある百貨店「松菱」は先月下旬からポイント還元事業の運用を始めた。同社では増税前の駆け込み需要で9月の売り上げは大きく伸びたが、増税後の10月は一転、10%減に落ち込んだ。

そこで期待するのが同事業。「これから本格化するクリスマス、年末商戦にかけてアピールしていきたい」(同社)と意気込む。

一方、「恩恵はほとんどない」とする店もある。津市内で洋服などを扱う店では、対象の決済が一種類ということもあるが、この1カ月でポイント還元事業によるキャッシュレス決済はゼロ。「数件の決済事業者に申請しているが、認可がなかなか下りない」と女性店主。それに加え、「制度を知らないという人もいる」と話す。

女性店主は「決済事業者ごとに申請が必要で、労力がかかり疲労困憊(こんぱい)している。この事業に振り回されているうちに、期限の6月末がきそう」と憤る。

別の服飾雑貨店の男性店主も「対象店舗になったが利用者なんていないよ」と冷ややか。もともと顧客は高齢者が大半で、キャッシュレス決済の利用はほぼないという。

県内の中小企業に詳しい専門家は「地域や年齢層で差が出ている」と話す。

消費者側も歓迎と困惑の声が上がる。

クレカ3枚、交通系電子マネー2件、スマホ決済で4件のアプリを入れる40代の会社経営男性は「単に現金を使わないというだけでなく、今後さまざまなサービスが生み出されてくる。世の中の仕組みも変えるだろう」と〝キャッシュレス世界〟に期待を寄せる。

一方、ポイント還元事業では、店舗によって決済事業者が違うことに戸惑う消費者も多い。40代の会社員女性は対象店舗に行った際、所持していたクレジットカードが還元対象とならず、「どこまでそろえればいいのか」と困惑気味だ。

さらに、還元方法も決済事業者によって異なる。即時値引きされるケースもあれば、後日買い物ポイントなどで還元される場合もあり、注意が必要だ。

「現金派」の50代主婦は、渋々ながらよく行くスーパーが発行する電子マネーを2種類取りそろえ、5%還元に対応。ただし、「期間が終われば現金に戻る」ときっぱり言い切る。