伊勢新聞

2019年10月16日(水)

▼歩行者が渡ろうとしている横断歩道での車の一時停止について県警幹部が「マナーではなく、法律で決められたルール」(『まる見えリポート』―車の一時停止率、三重が最下位)

▼十代ぐらい前の県警本部長が、赴任直後に県議会で答えた言葉を思い出す。「三重県民はマナーが悪い」。交通死亡事故が全国的に低下しているというのに、県は微増。何が問題かと問われての答弁である

▼守っても守らなくても、どちらでもいいというものではないんだというのが県警幹部の「ルール」で、「マナー」はそうではないということだろう。元県警本部長の「マナー」は人間として誰もが持っているはずの常識で、そもそもそれがないから事故を起こすやからが絶えないと言ったのではないか

▼孔子は政策、刑罰で人を導けば人は法律の穴を見つける、徳、礼を用いれば「恥有りてかつただし」すなわち「その身を正す」(論語)。しかし、このせつの日本は刑法に触れなければ清廉潔白だ

▼横断歩道前の車の一時停止状況を観察したが、郊外ほど待つのは歩行者。余程の勢いで踏み出さねば車は止まらない。後続車は前車に続く。運転者はルールより、歩行者の出方を見ている。止まらずに済むのなら止まらぬ方がいいということだろう

▼二年連続首位の長野県は小中学校で一時停止した運転手に礼を言う指導をしているという。同県警は「運転手も悪い気はしない。その積み重ねが首位につながった」。ワースト三位から最下位に転落した三重県警は「重く受け止め、対策に取り組むが、運転手も安全運転に努めてほしい」。