子どもからお年寄りまで幅広い世代がつながれる場所をつくろうと、三重県尾鷲市の有志が今年4月から、ボランティアで「みんなの食堂」を月に一度、同市栄町の市福祉保健センターで開いている。開始から半年が経ち、1回当たり50人前後が利用するなど好評を得ている。児童虐待などで幼い命が失われる事件が全国で相次ぐ中、子どもや子育て世帯を地域で守り、支える同市内の取り組みを紹介する。
「みんなの食堂」の開設は、代表を務める山下裕子さん(41)が、地域の住民同士のつながりが持てる場所をつくりたいと思ったことがきっかけ。「子どもの貧困率が7人に1人と知り、自分にできることをやってみようと思った」と語る。市内では初の取り組みで、「子どもたちや一人暮らしのお年寄りなど、皆に足を運んでもらいたい」という思いから、みんなの食堂と名付けた。
東紀州地域でスーパーを7店舗運営する「主婦の店」(本部・尾鷲市瀬木山町)が協賛している。同社が食材を無償で提供しており、大人300円、子ども百円と安い参加費でご飯を食べることができる。尾鷲商工会議所女性部の協力も得て毎回10人ほどが、調理を担当するなど運営に協力している。
保護者や子どもたちは、食事をするまでの間、別の部屋でおもちゃやトランポリンなどで遊んだりおしゃべりしたりして過ごし、交流している。
何度も食堂を利用したことがあるという、2歳と4歳の息子がいる世古美沙樹さん(31)は「同年代の人たちとご飯を食べることができるので、会話が生まれる。こういった場所が増えてくれるとありがたい」と話す。山下さんは「毎月来てくれるお母さんもいて、皆の憩いの場所として、少しずつ認知されてきたと思う」と手応えを感じている一方で、「地元の企業や賛同者がもっと増えてくれれば」と願う。「今はこの場所しかないが、いろんな人が協力して、子どもたちが気軽に集まれる場所が増えたらいいな」と語る。今後は、絵本の読み聞かせなどワークショップなどにも取り組みたいと意欲的で「多くの人に興味を持ってもらいたい」と話している。
子育て世代や子どもたちを地域で支える取り組みを、行政も始めている。市は昨年4月、母親の妊娠期から子育て期にわたる途切れのない子育て支援のワンストップ拠点「子育て世代包括支援センター」(通称・はっぴぃ)を同市栄町の市福祉保健センターに開設した。
センターには保健師、栄養士、社会福祉士、保育士が常駐しており、子育ての相談に乗ったり親子で参加できるイベントなどの情報を提供したりしている。
センター開設と同時に、市は「子育てサポーター」を市民に委嘱。講座を受講して認定された市内の40―70代の17人が、母親の育児の不安や悩み事の相談に乗る。福祉センターの2階には、子どもらが遊べるようにすべり台などの遊具を設置。保護者が検診を受けている間などに、子育てサポーターが子どもを預かっている。
市福祉保健課の東弓子係長は「センターのことを知らない方もいるので、もっと周知していきたい。お母さんやお子さんたちが気軽に訪れることができるセンターを目指したい」とする。
センターの開設は県内全体でも進んでいる。県子育て支援課によると7月末現在、センターを開設しているのは24市町で、1町が年度内の開設を予定している。ほかの4市町も来年度の設置を目指している。